「神宮寺レン!」
「ん?」


女に囲まれたその男は、俺が叫ぶように名前を呼ぶとゆったりと余裕の笑みを乗せて振り返った。その顔にイラッとした俺はますます眉をひそめた。この、お前なんか足元にも及んでねーよっていうような感じがすげぇムカつく。神宮寺は俺を確認すると、笑みを深め女の子達を帰した。ヒラヒラと女子に手を振るう神宮寺を睨みながらチッと1つ舌打ちを打つ。へらへらへらへらしやがって。


「で?何の用かな、子猫ちゃん」
「きもいこと言うんじゃねーよ。」
「ひどいなぁ」


俺を女子達と一緒の扱いしやがって。完全に俺のこと見くびってるだろ!!睨む視線を更に鋭くし、顔をしかめる。神宮寺財閥の息子で?Sクラスで?イケメンで?女子にモテモテで?(グループとしてだけど)デビューもして?そんな完璧な人間居てたまるか!俺は、極々一般家庭の育ちで。Aクラスで。平凡で。女子とは友達止まりの童貞で。デビューは程遠くて。こいつに比べたら、くそみたいだけど、こんな俺でもこいつに勝てるってことを証明してやる!


「神宮寺レン!俺はお前を超える!!」
「…ふーん?」
「今に見てろ!お前よりもすげぇデビューして、女子にもモッテモテになってやる!」
「モテモテ、なぁ」


ハーハッハッハッと高笑いしながら、神宮寺の顔面を指差しながら高らかに宣言すると、その顔は神妙な表情になっていき顎に手を添えて、瞼を閉じた。な、なんだ。この俺の勢いに怖じ気ついたか?意外なリアクションに戸惑いつつも神宮寺を伺った。神宮寺は閉じていた瞼を開くと、おもむろに俺を引き寄せた。……引き寄せたぁ!?少し背の低い俺は間近にある、奴の顔を見て固まった。そっと俺の腰に手が回ってくる。ぞわりと鳥肌が立つ。ひぇえええ、!


「俺は嫌だな。君が女の子に囲まれているのは」
「気持ち悪い!離せよっ!」
「ただのハグだろ?」


そんな嫌がらなくてもいいじゃないか子猫ちゃん。と笑う神宮寺の吐息が耳にかかる。そこに熱が集まって真っ赤になる。ありえないありえないありえない。何でこんな奴に俺が抱きしめられてんだ!!つーか、男同士のハグなんてむさ苦しいだけだろ。離せ、と肩を押すけど、無駄に筋肉質な体はびくともしなかった。うわあああなんなんだよコイツ!ほんっと意味分かんねえ。チラリと上を見上げると、何故だか真剣な顔をしていて、澄んだ青い目が俺をじっと見つめていた。どきり、と心臓が鳴る。いや、これは蛇を前にしたねずみと同じ心境な訳で、いや、こいつに怖じ気ついた訳じゃねぇよ!?


「君が作曲家だったら良かったのに」
「は?な、なんで…?」
「そしたら、絶対1番にパートナーに選んだ。」
「っ俺の事知ってんのかよ」
「俺のデビューライブの時に最前に居ただろ?」
「なっなななななな、な」


なんでそれを!!!あの時俺はサングラスに帽子も装着していたのに。思わず、縋るように肩を掴むと何だか満足そうに笑っていた。


「ずっと、俺のこと見てただろ、涙人」


囁くようにそう言われ、俺は顔を真っ赤にして口をぽかんと開いた。あの時、俺は魅了されてしまったのだ。神宮寺レン、というアイドルに。恥ずかしい。バレていたことに、そして名前を呼ばれたことに。力の抜けた隙を見て、神宮寺はぎゅっと強く俺を抱き締めた。


「これからもずっと、俺のこと見てろよ、涙人」
「…ばっかじゃねーの」


もがく気も逃げる気も無くなってしまった俺は、真っ赤な顔を俯けて、どうにかそう呟いたのだった。



ピンクの心は破裂した
(治し方は知らなくていい)




110930.
つんでればか主人公を目指しました。

Title by 驕児





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