ああ、真っ青だ。青い青い炎。その炎は僕の両親を包み込み、あっという間に消し炭にした。目の前で消え去っていった両親に上手く感情が扱えず、ただただポロポロと涙が流れるだけだった。世界で唯一温かく僕を愛してくれた2人はもう居ない。もう、居ないのだ。喪失感がはっきりと胸の内に浮かんでくると、さ迷っていた感情が溢れ出し、悲しみに胸が締め付けられ、子供の様に喚き泣いた。おとうさん、おかあさん、あああああ!!!!青い炎は脳裏から瞼の裏から消えることは無かった。それが15年前の話。





「奥村燐だ!よろしく」
「奥村…?ああ、奥村先生の、」


首に掛けていた眼鏡を付け、椅子に座る転校生をじっくりと見やる。落ち着かない様子で周りを見渡す彼に、職場仲間の奥村先生の面影は少しあった。性格は全然違うようだけど。席を立ち、やかんの中で沸いた湯をインスタントコーヒーの粉の入ったマグカップへとうつす。


「ミルクと砂糖はいる?」
「あ、うん、いや、はい!」
「別にため口でいい」


ふ、と鼻で笑いながら片方のカップに牛乳と砂糖を入れていると、後ろの方からぼそぼそと、分かったという呟きが聞こえた。出来上がったコーヒーとカフェオレをテーブルに置き、椅子に腰掛ける。彼にマグカップを進めると、ありがとう!とそれを受け取った。奥村、何だっけ。まぁいい。僕がクラスを受け持っている訳でもないし。奥村(兄)は息を吹きかけながらカフェオレを飲んでいる、僕もそれを眺めながらブラックコーヒーを啜った。


「奥村、何で君がここに呼ばれたか分かる?」
「…分かんねえ。シュラに聞いたけど、教えてくんなかったし」
「君が、サタンの息子だからだ」


奥村先生から貰った調書に目を向ける。なるほど、剣を抜くことによって虚無界へのゲートが開かれるのか。向かいの彼に目線を戻すと険しい顔をしてこちらを見ていた。僕と目が合うとその藍色の瞳が揺れる。彼が青い炎を受け継ぐ者。僕の世界を壊した血。


「お前も、監視ってやつかよ」
「いや、僕は君の健康管理をする役目」
「健康、管理?」
「ああ。奥村先生に頼まれたんだ」
「雪男に…」


身体的にも精神的にも。奥村兄を診て欲しい、と。先生は僕の両親が青い夜によって死んだ事を知らないらしい。一部の祓魔師達は事情を知っているので、何やら言いたそうな顔をしていたけどあえて知らぬ振りをした。好奇心だ。あのサタンの息子がどんな奴か知りたかったし、あわよくば殺してしまおうかと考えていた。でも、今目の前でカフェオレをちびちび飲んでいる男の子はれっきとした人間で。あの禍々しい悪魔の片鱗も見えなかった。


「健康管理って何やんだ?」
「…別に何も。僕と話してればそれでいいんじゃない」
「まじかよ!なんか軽いなー」
「特に異常は無さそうだしね。悩みとかあるなら聞くが?」


眼鏡の弦を押し上げながらそう聞くと、彼は腕を組みうなり始めた。なにか悩み事を探しているらしい。僕はそれを横目に調書の続きを読む。現在は祓魔塾の候補生、か。奥村兄はなんで祓魔師になりたいのかは知っている。獅郎さんが亡くなったから。その仇であるサタンを…自分の父を倒す為に祓魔師になったという。なんと愚かしい事か奥村兄。君は本当にサタンを討てると思っているのだろうか。


「…奥村、君は…サタンを倒せると思う?」
「…何だそこまで知ってんのか。」


彼は何だか寂しそうに笑った後に、顔を引き締め言い放った。


「サタンは俺が倒す!絶対にだ」


憮然とした態度で宣言した奥村兄に唖然とする。彼はサタンを倒せると、否、絶対に倒すと言った。僕の復讐相手である彼の父を。その瞳に揺らぎは無くて真っ直ぐで。僕は何だか泣きたいような気持ちになった。何故だか、彼なら出来るような気がしてたまらなかった。
まずは君の名前から覚える事にしようか、奥村燐。



君の痛みを喰らう
(悪魔に出逢ったんだ)




20110608.

Title by 魔女さん



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -