「あ、れ…?」


右肩に激しい痛みが走る。
とても、熱い。弾丸で撃たれたようだ。
だがそこには弾丸が貫通した訳では無く、人の指が突き刺さっていた。
痛みが段々と広がっていく。額に脂汗が浮かんで、伸ばした腕がだらんと下がる。
がくん、と膝が曲がり、床に座り込む。手で傷口を抑えると、ぬるりとした感触。


「ルイトっ!!」


パウリーさんの声が響く。
駄目ですよパウリーさん、そんな怪我してるのに叫んじゃ、そう言いたかったけれど声が出なかった。
味わった事の無い痛さに意識が飛びそうだった。弱いな、俺。情けない。
虚ろになる目で目の前に立つ人物を見上げる。
信じたくない。この人の指が俺の血で染まっているなんて。
この人が、俺の恩人を殺そうとしたなんて。


「ルッチ、さ…ん」
「…俺達の邪魔をするな」


そんな声だったんですね。なんでそんなにかっこいい声だったのに喋らなかったんですか。
そんな問いも全て言葉には出来なかった。
冷たく刺す視線が、怖くて。この状況が未だにまだ飲み込めていなくて。
なんで、俺の憧れの人達がそっち側に立っているんだ。
なんで、“敵”のような顔をしているんだ。
視線をルッチさんから我が恩人に向ける。大丈夫、死んでない。


「アイス、バーグさん…」
「ルイト…」


親も兄弟も死んで、途方にくれている俺を拾ってくれたアイスバーグさん。
そのアイスバーグさんが、俺の憧れの人で尊敬している人で憧憬に似たナニカを抱いていたルッチさんに殺されそうになっている。
そんなの嘘だ。信じない、信じたくない。
だって、ルッチさんはもっと優しくて、こんな冷たい目をする人じゃない。
俺の頭を撫でた掌は暖かくて、いとしかった。


「行くぞ」


俺に背を向け、歩み始める。
行かないで、と腕を伸ばしたかったけど、言うこと聞いてくれなくて。
更に意識が段々と薄れてきた。近くで何かが崩れる音がする。
閉じていく視界の中で、振り向いたルッチさんと目が合った気がした。
これが夢だったら。目が覚めたらまたいつもの日常が始まるのだろうか、否、絶対にそうだ。
みんなが、ルッチさんが居なくなっているなんて、有り得ないんだ。
そして意識は沈んでいく。




勘弁してくれよ、神様
(夢だって、笑ってくれ)



110220.
放浪様提出

七瀬





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