出会わなければ良かったのだ。いっそ、あの時に戻って、何も無かった事にすればいい。そうしたら、この苦くて痛い想いも味わう事は無かったのに。なんで君と出会って、旅をして、好きになってしまったのだろうか。報われる事なんて有りはしないのに。幸せになんか絶対になれるはずはないのに。自分はなんて大馬鹿者なんだ。


「ルイトは、どうしたいの?」
「…何が?」
「ルークの事、好きなんでしょ」


幼なじみのアニスが泣きはらした目でこちらを見る。同じく泣きはらした目で俺もアニスを見る。アニスはこの前最愛の人を無くした。それを今でも自分のせいだと悔やんでいて、気持ちを俺に吐露しながら泣いていた。その姿を見て、俺は1人でずっと悩んでいた想いを彼女に打ち明けた。ルークを恋愛対象として好きだ、という事を。アニスはびっくりしていたけど、気持ち悪いだろと俺が自嘲気味に笑うと、そんな事無いと真剣に言ってくれて、思わず泣いてしまった。しかし、その人ももう、


「どうする事も、出来ないだろ」
「でも、気持ちを伝える事くらいなら出来るじゃん!」
「ルークの負担になるだけだ。それに…ルークには、」
「…ティアが居るから?」


体育座りをして立てた膝の間に頭をうずめ、小さく頷く。あの人にはもう相手がいる。可愛くて頼もしくて、ルークを1番見て来て知っている女の子が居る。ティアだってルークが好きなのはもうバレバレだ。だから2人は両想い。俺の入る隙間なんてそもそも存在していないのだ。その前に、男が男を好きだなんて異常な事を彼が理解する訳ない。受け入れてくれる訳がない。


「いい。もう。この気持ちは墓まで持ってくから。」
「でも、ルイト、」
「だからもういいって!!」
「っ何で諦めちゃうの!?まだ目の前に好きな人が居んのに!伝える事出来んのに!居なくなってからじゃ遅いんだよ…?」
「アニス…」


涙を流し始めるアニスの肩を抱く。小さく細いそれは小刻みに震えていた。ごめん、と呟く。もう彼女はどうしたって伝えられないのだ。もう居ないから。俺の想い人も遠からずその運命を辿るだろう。この世から、俺の目の前から消えてしまう。未だに現実味が湧かない。ルークはまだ生きている。


「ルイトと、アニス…?」
「ルー、ク」


アニスの背中を撫でていると背後から物音がして振り向くと、そこには今まさに話していたルークが居た。きょとんとした顔で俺達を見ていた。


「ごめ、なんか俺…邪魔したみた」
「ルーク、ルイトが話あるって」
「え?」
「あ、アニス!!」


小さな声で、いいからと言うと赤い目尻をこすりながらルークの横を通って行ってしまった。アニスの馬鹿。俺はこのままでいいって言ったのに。ルークに話す事なんて、何にも無い。


「ルイト?あの、俺に話って何だ?」


アニスの後ろ姿を呆然と見送っていたルークがいつの間にかこちらまで来ていた。座ったままの俺の顔を覗き込むように伺う。間近にある彼の顔に思わず固まってしまう。ルーク、好きだ。ずっと好きだったんだ。こんな言葉を口から出せればいいのに。ぎゅ、と彼を抱き締めて全て言ってしまえたら良いのに。最初に出会ったその日から綺麗な朱の髪と翡翠の瞳に惹かれていたと。レプリカと聞いても何の躊躇も無く君の事が好きだったと。アッシュではない“ルーク・フォン・ファブレ”を好きなのだと。


「…何でも、無いよ」


どうにか控えめに微笑むと彼は少しだけ困った顔をして、そっかと頷いた。
でも俺は伝える事なんて出来ないのだ。だって君は居なくなる。いっそ俺も一緒に消え失せてしまおうか。




消失する君と共に
(俺ごと消し去ってくれ)




110503_


七瀬



第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -