ため息をつく。
上から視線を感じる。なんだ、俺のせいだっていうのか。
抗議するように目線を上げると、相手の目とかちあう。
1、2、3。3秒ほど見つめ合った後、相手が目を逸らす。
なんだよ、何か文句あんのか。俺のせいじゃねぇぞ。
ため息をつく相手。そっぽに向けられた顔は不機嫌そうだ。


「あちぃ」
「そんなん、俺もだよ。」


密着しあう身体。
息が触れ合う程近い顔。
身体が動かせない密室。
俺と阿部は部室のロッカーに閉じこめられていた。


「大体、お前がこんな所に入ろうとすっから…」
「だ、だって気になったんだもん!」
「だもん、じゃねぇよ。気持ち悪い」
「そんなん言うなら、阿部が入って来なきゃこんな目には!」
「あ゛ぁ?俺のせいだってのかよ」


ギロリ、と睨まれると思わず口を閉じてしまった。
確かに…入ったのは俺が先だけど…。

事の発端は、部室にあった古いロッカーだ。
俺と阿部は委員会で遅れて部活に来た。俺は元々ジャージで居たので、阿部が着替えるのを待ちながら部室を見回していた。
そこで目に入ったのが、隅にあった古ぼけたロッカー。掃除ロッカーなのか、俺の身長より高い。
戸を開くと、ギィと軋む音がした。その音で阿部がこちらを向くのが視界の隅に入った。
中はどうなってんだろう、と覗き込もうとすると、段差に気付かずずっこけた。


『っぎゃあああ!』
『春野!?』


うす暗いロッカーの中に倒れそうになる所を誰かに抱き留められた瞬間、バタン!と何かが閉まる音がした。


「てか、なんで阿部が入ってきただけで扉が閉まるんだよー」
「だから、服が引っかかったってたっつったろ。」
「…やっぱ開かない?」


俺がそう問うと、阿部は肘で扉の内側を叩くがびくともせず。古いので建て付けが悪いのか、閉まった瞬間に何があったのか、扉は固く動かない。
もっと強く押せばいいじゃない?と言うと、もしかしたらもっと変形するかもしれねーから、と返された。
だから、どうする事も出来ずに抱き合ったままなのである。どうゆう事。


「みんな、帰って来ないかな…」
「…帰って来ないだろ、後数時間は。」


阿部の言葉に絶望感を覚える。
マジかよ。後数時間もこの阿部と抱き合ってないといけないのか。なんという苦痛。これが栄口とか千代ちゃんだったらなぁ…。阿部っていうのがまたな。なんでお前なんだ。
また、溜め息を吐きながらうなだれると、阿部の胸に頭を預ける形になってしまった。阿部の匂いがする。いいか、この方が楽だし、このままで。そう思い、ぐりぐりと頭を押し付けていると、「おい、」と怒ったような声が聞こえたけど、無視。
すると、俺が押し付けられている壁についていた手で頭を掴むと、顔を上げさせられた。阿部はこれでもかって程眉間に皺を寄せていて、こいつ皺にならねぇのかなとか、てか顔超近ぇなぁ、キスしそうだなとか下らない事を考えていた。
阿部の心境も知らずに。






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ロッカーはねつ造です。