「お邪魔しまぁす」
「お邪魔します」
「どーぞどーぞ」


狭いアパートの玄関に男3人で居るとむさ苦しいなーと1番後ろでぼんやりと考える。いつもは自分1人か東と2人でしか居ないこの空間が少しだけ賑やかになる。それだけの事なのに何だか笑みが零れる。
俺の家に遊びに来たいという水谷とちょうどその話をしていた時に現れた泉も来たいというので部活がオフの日に俺んちに来る事に。高校の友達を入れるのは初めてなので、朝から緊張していた。東にも手伝って貰って、部屋をある程度片付けたけどやっぱり何だか気になる。


「春野んちきれいだねー」
「ほんと?一応片付けたんだけどさぁ」
「どうせ由井に手伝ってもらったんだろ」
「…何で分かるの泉さん…」


お前が1人でやる訳ないだろ、と鼻で笑いながら我が物顔でソファに座りクッションを抱える泉。泉はあれだよな俺を見くびり過ぎだと思うんだよな。うん。
水谷はテレビの周りやその上の壁に掛けてある写真を眺めながら、わーとかへぇーとか呟いている。写真を飾ったのはこの前手伝いに来た東だ。俺がソファで女の子と電話してる間にこっちを睨みつつも作業していたのを覚えている。俺もちゃんとは見てないけど、遠哉と俺の写真や東と3人の写真が飾られていた。東なりの気遣いなのだろうか。柄じゃない事するよなあいつも。


「泉、水谷ーコーヒーでいい?」
「あ!俺ミルクと砂糖欲しい!」
「りょーかい。泉は?」
「俺はいい」


リビングに面しているキッチンに向かうとインスタントコーヒーの準備を始める。ずっと使う事がなかった新品のマグカップを2つ用意する。いつもは俺と東の分しか使わない。予め用意していたケトルのスイッチを押し、ぼーっと湯が沸くのを待つ。コーヒーを淹れるのはいつも俺が担当で、東は買い出し担当。高校に入って1人暮らしを初めてからずっとそうだった。ばあさんちに居候してる東は毎日のように俺んちに来ては、お惣菜を持ってきたり、夕飯を作ったり、掃除をしろと説教してきたり。中学の頃は一緒に喧嘩をしていた仲で、こんなに親密では無かった。あの夏以来だろうか、東と俺がいつも一緒に居るようになったのは。今では無くてはならない存在になっている、気がする。本人には絶対言わないけど。
ぴーっと湯が沸いた音が鳴る。コーヒーの粉が入ったマグカップにそれを注ぐ。牛乳あったかな、と冷蔵庫を開こうとしたその時。


「なにこれ!」
「うわ…春野やば…」
「え!?なになになに!?」
「この写真!!」


いきなり大きな声をあげた水谷が掲げた写真に目を凝らしながら近づいて行く。それに何が写っているのか分かった瞬間。


「うわあああああ!!!」
「な、なんだよー春野」
「ちょっとちゃんと見せろよ」
「これは駄目だから!まじで!がちで!!」
「じゃあ何で飾ってあったんだよ?」
「知らねーよ!」


奪い取った写真を2人に見えないように胸に抱え込む。取ろうとしてくる泉にブンブンと頭を振る。なんでこれが飾ってあんだよ!!くそ東の野郎。片付けほぼやらせた仕返しかよ。次会った時ぶん殴る。

その写真には、お互い傷だらけで笑う真っ赤な髪をした俺と野球のユニフォームを着た遠哉が写っていた。







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由井君はお母さん

Title by カカリア