向日葵が太陽に向かってまっすぐ伸びている。辺りには線香独特の香りが立ちこめていた。墓前には色とりどりの花や供え物が置いてあった。
もう、家族が来た後なのだろう。墓の周りは綺麗にしてある。俺は線香に火をつけると、灰の中へと刺す。蝉の鳴き声を聞きながら、目を閉じ、両の掌を合わせる。

遠哉。元気か。お前がそっちにいってから、もう1年も経ったな。西浦は負けちまった。でも、みんな頑張ってたんだ。次に向かって、もう走り出してる。すげぇな、と俺は思うよ。
遠哉、俺は西浦に来てよかった。お前のおかげだ。野球部に入って、みんなと出会って、色んな事を知った。でも…お前が居たらもっと。もっと良かったのにな。俺と東と遠哉で、3人で、ずっと居れたかな。とおや、

瞼を開く。少し目眩がした。
墓石を撫でると冷たい石の感触しかしなかった。何も応えてくれないのか、遠哉。俺はまだ信じていないのだ。遠哉が死んだ事。1年経った今でも、ひょっこりと顔を出して、俺の前でいつものように笑ってくれるんじゃないかと信じてならない。
まだ、現実を受け入れられていないのだ。


「…遠哉」
「…おい。」


声を掛けられたかと思うと、後頭部をばしん、と叩かれた。しかも結構強い。地味に痛むそこに手を添えながら、後ろを振り向く。俺は叩いた張本人は少し不機嫌そうな顔で俺を見ていた。


「っすんだよ!東!」
「お前がぼやっとしてるからだろーが」
「はぁ!?てめぇ、加減を知らねーのか!」
「知らねェ」


こ い つ … !!!
東は俺の事など無視して、自分も線香を供え目を閉じた。後ろからどついてやろうかと思ったけど、後が面倒臭いのでやめておいた。
青空を仰ぎ見る。晴天だ。遠哉が居なくなった日も、そうだったかな。その日の記憶はあまりない。多分、いつものように学校をサボって、どこかで遊んでいたのだろう。訃報を聞いたのは夜中だった。その日から数日の記憶もあやふやだった。ただずっと側に東が居たことだけは、うっすらと覚えている。


「謙流」
「なんだよ」
「…べつに」


べつに、とか言いながら手握ってくんじゃねぇよ。
東の少し冷えた手が気持ちいい。ぼんやりしていた感覚がはっきりしてくる。振り払えば、すぐに解けてしまうであろう手を俺は離さなかった。
遠哉、お前が居ればもっと良かったけれど、俺には東が西浦のみんなが居る。お前に怒られた、あの頃よりずっと幸せだと思う。


「東ー」
「なんだ」
「西浦、入って良かったよな」
「…あぁ」


次来る時は、勝利をお供えしてやるよ、遠哉。
俺達は少し佇んだ後、手を離して墓前を後にした。向日葵は笑うように風で揺れる。蝉もうるさい。この真夏日の中、頑張っているあいつらの元に戻ろうか。



向日葵に告ぐ
(君を置いて、走り出さなければ。)



110412.
時期的に夏合宿中