八田さんは、俺より1つ年上のはずなのに子供みたいだ。身長は小せぇし、沸点低いし、女にはうぶだし、子犬がきゃんきゃん喚くみたいに俺に説教垂れてくる。勝手に俺と女とのだらしない関係に口挟んで来たりして。顔真っ赤にした童貞に何言われても心に響かねぇっつの。それでも、今日も今日とて八田さんは俺に怒鳴ってくる。


「だから!おめェは何度言やわかんだよ!」

「何回言われても分かんないと思いますよ」

「あぁ゛!?ふざけんなよ!!」

「別にふざけてはないですけど」


八田さんはマジで怒ってて、俺は鬱陶しくて、周りはまたかと笑っている。最近入った吠舞羅というチームはただのチンピラ集団かと思ったけどそうでもなかった。リーダーの尊さんは男らしくて頼れるし、アンナは大人しくてかわいいし、鎌本さんはなんだかんだ世話を焼いてくれるし、出雲さんは最高。他の仲間も良い人ばかりだ。別に八田さんが嫌な訳ではないけれど、何度も何度もこう解決策を言うでも無く、ぐだぐだ叱って来るのは本当にウザい。それに…。うん、まぁとりあえずうざったいのに変わりはない。


「あのなぁ、俺はお前を心配して…っ」

「別に俺心配して欲しいとか言ってねぇっすけど」

「てっめぇ、名字…!」

「まぁまぁ八田ちゃん落ち着き。男主も挑発的になるなや」

「草薙さん!でも、こいつがっ」

「出雲さんがそう言うなら…」


俺がそう言うと八田さんはキッと俺を睨み付けた。そんなに睨んでも上目遣いになって全然怖くないし。
出雲さんが俺にちょいちょいと手招きをしたので嬉々として近付いて行った。


「なんですかっ、出雲さん!」

「あんなぁ、男主。少しは八田ちゃんの話聞いたってや」

「…それですか…」

「な?ええ子やから」


出雲さんに頭を撫でられ、ウィンクされながら、お願いされてしまったら、俺が断れる訳が無い。
鎌本さんの所でぶうたれている八田さんの元へ向かう。目が合って、睨むかと思いきや視線を彷徨かせ鎌本さんの後ろに隠れてしまった。思わず眉をひそめてしまうと、鎌本さんがまったく、と言いながら八田さんの首根っこを捕まえて俺に差し出した。暴れる八田さんを抑えて、鎌本さんから受け取ると、店の外に出た。


「大丈夫っすかね、八田さんと名字…」

「平気やろ。若いもん同士仲良うしたらええのに」

「名字の奴…アイツに似てますしね…」

「それがあるから、八田ちゃんもあんなに構うんやろうな」





「な、何だよ!もう俺はお前に話す事なんてねぇ!」


店の裏の路地裏まで引きずって、壁際に追い込むと、焦ったように目を泳がす。八田さんの顔の横に手を付けると顔をぐっと近付けた。


「八田さんは、俺をどうしたいんですか?」

「どうしたい、って何が…」

「説教垂れて来るくせに、俺のどこを改善しろとか言わないじゃないっすか」

「それは、だってよ…」


視線を逸らす事なく、真面目な顔でそう問うても八田さんは答えを出してはくれなかった。
俺は薄々は気付いていた事がある。それを認めるのが癪で、かわしていた部分があるのかもしれない。でも、そんなの、全部八田さんが悪い。八田さんだってきっと気付いてるはずなのに、認めようとしない。


「行きずりの女とセックスするのがそんなに駄目?」

「なっ!!てめェ、なに、」

「じゃあ、八田さんが相手してくれます?」

「は、ぁ…!?」

「俺、ヤりたい盛りなんで、ああいうの止めろって言われても無理なもんは無理ですし。八田さんが面倒見てくれるなら、言われた通り止めますよ」


両腕を壁について目の前の人を閉じ込める。顔を真っ赤にして、目は怒ってるみたいにつり上がってるけど、混乱の色は隠せていない。ほら、と膝を両足の間に滑り込ませると、ふざけるな!と上がった腕を強い力で握った。


「いたっ…」

「八田さん、どうするんですか」

「んなの、無理に決まってるだろ…!」

「じゃあ俺、吠舞羅をやめます」

「えっ」


見開いた目に映る俺はそれはもうあくどい顔をしていて、ああ、自分最低だなと自嘲した。きつく握っていた手首を離して、するりと八田さんの顎を撫でる、肩が跳ねたのを無視して、更に顔を近付けると目を閉じた。


「キス、して下さいよ」

「名字…っ!」

「童貞でもキスの仕方くらいは知ってますよね?」

「…くそ野郎!」


首もとに回ってくる震える腕に、うっすら瞼を開くと、身体全体震わせて瞼も唇もばっちり閉じた八田さんが目に入って、どうしようもなくムカついて、相手を待つ事無くキスをした。
あんたは、なんで吠舞羅をやめられる事にそんなに怯えているのか、俺に“誰”を重ねているのか知らないけど、それが無性にムカつくし、何だか泣きたくなるんだよ。




言いくるめて頂戴この感情を
(何故こんなにも、)



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130211.
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