練白龍/男主



あ、と息を漏らしそうになったけれど、どうにか留めることが出来た。もう一度黙視して確認してから、溜め息を付いた。落胆、だとかの意味じゃなくて、どちらかと言えば呆れのような愛おしいような。
またあんな隅っこで、気づかれないようにひた隠して、俺が気づかないとでも思ったのだろうか。可愛らしい。


「まーた泣いてるのかよ、白龍ちゃん」
「っ…!男主、殿」
「どした?また誰かにいじめられたのか?」
「な、何でもありません」


俺の声にびくりと背中を揺らす。慌てて目を擦る腕を優しく後ろから制した。バッとこちらを振り向く顔は困惑と憤慨が混ざった表情。見慣れた表情だ。いつまでも俺に対してはこんな態度。強情な奴。けして他人には弱味を見せない癖に、傷つきやすい弱い奴。だから今日も誰も来ないようなこんな庭の隅っこで泣いていたのだ。


「おいおい、白龍ちゃんは何でもないのに泣くのかよ」
「な、泣いてなどいません!それと、その呼び方はやめてください」
「嘘。泣いてただろ、白龍」
「あっ、!」


次は優しくなんてしない。強い力で両頬を掴み、こちらに顔を向かせる。驚いた顔の目尻は朱。瞳もまだ潤んでいた。うそつき、とにやりと笑ってみせると、違う意味の朱が頬を染めた。可愛らしい、俺の白龍。湿っている目元を親指でなぞると、息を詰めた後、勢いよく俺の身体を押す。俺は抵抗もせず、一歩後ろに引いた。そんな赤い顔で睨まれても怖くも何ともないというのは分かっているのだろうか。


「やめろ!あんたなんか嫌いだ!」
「そーう?俺は白龍ちゃんのこと大好きだけどな」
「うるさい!いつもそうやって俺の事を馬鹿にして!」
「馬鹿にしてなんかないよ。可愛がってるだけだって」
「そ、それが馬鹿にしてるんだ!」
「ああ、もう…泣くなよ」


失敗した。いじめすぎた。俯いた顔からぽたぽたと雫が垂れる。我慢出来ないのか、う、う、と唇からうめき声が漏れている。泣かせるつもりじゃあ、無かったんだけどな。だけど、俺の前で涙を弱味を見せてくれている事に優越を感じる。ごめんね、お前泣いてんのに俺何だか嬉しいや。その意も込めて、壊れ物を扱うように優しく抱き締める。首筋に顔を埋めると白龍の匂いでいっぱいになって、身じろぎをする身体を抑えつける。後頭部に回した手であやすように撫でる。可愛い可愛い俺の白龍。恐る恐る背中に回る腕も俺の肩を濡らす涙も愛おしい。


「あなたなんか、嫌いです」
「知ってる」
「優しくするな!」
「むーり」
「近づくな」
「やだ」
「もう、やめてくれ」
「やめたくない。大好きだよ、白龍ちゃん」


たとえ俺があの女の回し者で白龍の監視を命じられていて、その事にお前が気付いていても。お前が泣いてる以上、俺はお前を見付けるしほっとけない。命じられたからじゃあない。お前を愛しているから。


「も、嫌なんだ、あなたを好きに、なりたくない」
「好きに、なってよ」


いけない事だと自分の意に反する事だと分かっているのに、俺の優しさに愛情に溺れて、好きになりそうで、でも、好きになりたくない。お前の中でそんな葛藤があるというだけで俺はもう。
早く、罠に落ちてくれ、愛しい人。その涙は俺だけの為に。







121004.
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玉艶さんの回し者な主人公さん。でもあんなばばぁ(小声)より白龍ちゃん大好き愛してるちゅっちゅっ!な白龍馬鹿。 白龍は12、3歳位かな。愛に飢えてるからこそ主人公の接し方に戸惑って、敵のはずなのに好きになりそうで怖い。
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