練紅覇/女主



「お前も不毛な奴だよねぇ」
「はい?」


足を拭いている手を止めて、後ろの主人を振り返る。主人はつまらなさそうに頬杖をつきながら、私の足をぼんやりと見ていた。先ほど吐いた言葉の意味を考えて、私は薄く笑った。


「心配して下さっているのですか?」
「ううん。別に心配はしてないよ〜」
「そうですか。それでは、何故?」
「ただ、お前を眺めていて思っただけ。そんな足してるのにさぁってね」
「足、ですか」


そんな事を言っているが、主人は足の掃除をしているといつも部屋に居座ってだらだらその過程を見ている。私ももう慣れた物で、部屋には主人専用の敷物まである。


「僕の事、恨んでる?」
「いいえ。」
「本当の事言えよぉ」
「はぁ…正直最初は紅炎様の指示と言っても、紅覇様の元に付くのは…あまり良い気分ではありませんでした」
「お前…正直過ぎない?」


主人が正直に言えと言ったのに。ぶうたれる紅覇様は私の足を取ると、寝転がってそれを抱きしめたままゴロゴロと寝返りを打った。ほこりが立ちますよ、と言いながら、頭から落ちた帽子を拾い上げて片方の太ももに乗せた。否、正確には片方だけの太ももに乗せた。


「今はちゃんと紅覇様の事大好きですよ」
「僕のせいで、片足無くなったのに?」
「義足を下さったのは、紅覇様です。」
「拾ったのは炎兄じゃん〜」
「紅炎様にも感謝しております」


そう、私には片足が無い。紅覇様の刃で根元から切られた。
私は元々奴隷だった。小さな国を治めている領主の戦闘用奴隷。ある時、主人が治めている土地に煌帝国が攻めてきた。巨大な勢力に立ち向かえるはずも無く、息絶え絶えに敵から逃げていた私の前には、大きな刃を持った少年。泣き叫びながら逃げる私を少年は踏みつけ、足の根元に刃を食い込ませ、身体と足を切断した。楽しそうに笑う少年におののき、切断された痛みに私は意識を失う寸前だった。死ぬんだ、と思った。惨めにこの少年に細切れにされて、ただの肉塊となるんだと悟った。しかし、少年の背後から低い声がして、背中の圧迫感が消えた。その声が敵なのか味方なのか確認する間も無く、私は意識を失った。


「その後、紅炎様が私を引き取ってくださり、紅覇様付きの女官にして下さった。私はこの煌帝国には死んでも払いきれない恩があるのです」
「はぁ〜、それで炎兄の事好きなんでしょ〜〜?」
「そうですね。お慕いしていますよ。でも、報われようとは思っていません」
「だからぁ、それが不毛なんだって」
「私のこの恋情が、不毛だと?」
「そう」


確かに私は紅炎様をお慕いしているけれど、別にどうにかしたいとは思っていない。紅炎様には、“私”の価値を見いだしてもらい、奴隷以上の生活をさせてもらっている。紅炎様は恩人であり想い人であり、私にとっての神である。私とはまず生きている世界が違う御方だ。


「私は、紅覇様の面倒を見て、仕事をし、たまに紅炎様のお顔が見えるだけで幸せです。これ以上の物は要りません」
「欲が無いねぇ、お前は。」
「昔の生活に比べれば、今は報われ過ぎているのですよ」
「へぇ〜〜」


にっこり微笑むと、紅覇様は興味無さそうに立ち上がり、私の義足を放るとそのまま部屋を出た。その後ろ姿に礼をすると、足を嵌める。
あんな態度だけれど、本当は紅覇様が心配して下さっているのは知っている。足の掃除をいつも見に来るのはきっと罪悪感が有るため。義足は1ヶ月に1度は精度の良い物と取り替えて下さる。足を奪ったのは紅覇様だけど足を与えてくれたのも紅覇様。
人生を下さった紅炎様、足を下さった紅覇様。私はこの命を懸けて、微量ながらでも、煌帝国の為に生き、死んで行くのだと思う。それが私の本望だ。







121008.
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ほんとはもっと過去の事書きたかったんですがそれがメインではないので割愛。時間があれば書きたいと思います。紅覇ちゃんは主人公の事は結構好きです。もう何もいらないという主人公にお見合いでもさせようかと思ってたり(笑)
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