「##NAME3##、私、恋をしたわ」
「恋?」
「ええ、初恋というものを体験したの」
「そっか…何だか知らない間に紅玉が成長していて、寂しいな」


僕の言葉に微笑む紅玉は確かに大人びていて、この国を出る前の彼女とは違っていた。
煌帝国の第八皇女である練紅玉は僕の幼なじみ兼主人だ。僕は小さい頃からこの練家に仕えており、紅玉が生まれてすぐに紅玉付きの家臣となった。紅玉は妹のように可愛く、武人としてはしたたかで強く、誇るべき主人であった。
最近までシンドリア王国に出向いており、やっと自国に帰って来たところだ。シンドリアには着いて行けず、心配ではあったが元気そうで安心した。旅の疲れも癒え、落ち着いたところで僕の仕事も一段落し、ゆっくりと語らう時間が取れた。


「…でも、叶わなかった」
「…そうだろうね、君はこの国の皇女だ。」
「分かっているわ。だからこそ、この国ではない所で恋をしたと思うの」
「只の、練紅玉として?」
「そう、只の女として。楽しかったわぁ…それに、嬉しかったの。政略結婚させられる前に、恋が出来て」


寂しげな笑顔を浮かべ、遠くを見つめる紅玉に奥歯を噛んだ。こんなに健気で純粋な主を振った男を恨んだ。末代まで呪ってやる。
かすかに震える握り拳にそっと手を重ね、目尻に涙を浮かべる主人を慰めるように微笑む。


「紅玉、きっとその恋は君にとってかけがえのないものになるだろうね。その想いや思い出を捨てろとは言わない、でも大事にしなさいとも言わない。それを経験したからこそ、君はこれまで以上に強く、美しくなれる。」
「…ええ、ええ。きっとそうだわ。私はあの人の事が好きだった。好きだったの。だからこそ、強くなりたい」
「なれるよ、君なら。僕の自慢の主人だからね」


肩に押し当てた小さな頭をなでながら、そう言うと、小さな嗚咽と共に肩が濡れていく。きっと立ち直った彼女は今まで以上に美しく、凛々しい女性になっているだろう。その姿を見るのは楽しみだけれど、やはり少し寂しくもある。
ああ、でも、その時に彼女が笑顔であるならば、僕はそれでいいんだ。



琥珀とハルモニアの唄



title カカリア
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