「りいちさ、んぁ」


鼻腔をくすぐったのは大人の男の人の匂い。歳だからなぁ加齢臭がね、と笑っているけれども、全然そんな事は無い。仕事で鍛えられたであろう細くもがっちりと筋肉が付いた腕に抱かれ、長身の彼がかがんで俺の首筋に顔を埋める度に背筋がぞくりとして、びりびりと弱い電気が流れてるみたいで、口からは女の媚びた様な気持ち悪い声が出る。そんなはしたない俺の顔に近付いて、孕んでしまいそうな色気たっぷりの笑みを浮かべて、噛みつくようにキスをするのだ。口内を蹂躙され、歯の裏側まで舐め尽くされ、舌を強く吸われる。息が出来なくて、苦しくて、肩を強く押すけれど無意味で。飲みきれなかった唾液が口の端から零れていく事さえ、敏感になった俺には刺激が強い。もう魂すら抜かれてしまいそうになるのではないか、という程のこの激しいキスが好きだ。こんな真面目で優しそうなこの人が獣みたいに俺を求めてくれる事がなにより好きだった。最後に唇を一舐めして、ちゅっと軽く口付けてくれる頃には俺はもうぐずぐずだった。


「ふ、可愛いね。顔とろけてる」
「だって…」
「今日はここまで」
「え?」
「明日早いんだろ。」
「や、やぁ」


そんな殺生な。俺はもうその気だし、身体は熱くて仕方がない。顔中にキスをしてくれるけど、それ以上は何もしてくれない。肩に置いていた腕を首に回して、上目使いで見上げるけれども、微笑むだけだった。もどかしい熱が発散出来なくて、もう泣きそうだった。触って、ほしい。


「こら、そんな顔するんじゃありません」
「らって、りいちさぁん。も、むり」


すり、と自分の下半身を相手に擦り付ける。触ってほしい。あのごつごつとした男の手で暴いてほしい。まるで自分が女になったような感覚が止められない。それに、奥を突き上げて、締まる度に快感に歪む顔が何とも言えない程に好きで。この無意味で何の生産性もないセックスが俺にとっては世界一幸せで。何度も何度も、何故自分が女では無かったのだろうと嘆いた。理一さんとの愛の証が欲しかった。


「今度、いっぱいしようね」
「…ふ、う…わかった」
「愛してるよ。おやすみ」


頭のてっぺん、額、瞼、鼻、頬、最後に唇に口付け、耳元でそう囁いた。おれも、あいしてるよ、と小さく呟くと嬉しそうに笑って、ぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でてから行ってしまった。部屋に残された俺は、次はいつセックスが出来るのか確認する為、カレンダーを見上げたのであった。



すべてがうまくいく世の中ではないけれど、愛することは究極の自由だ



title にやり


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テーマ「人外ファンタジー」
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