小さな七年生 2011/03/05(0) 昔から、面倒なことに巻き込まれる体質だった。 谷塚衣琴という名前の通り、道を歩けば事件に巻き込まれ、学校の活動では、必ず仕事の多いところになぜか回された。名乗ったときに「厄介ごと?」「谷塚衣琴です」というのがパターンであった。別に親を怨んではいない。 そんな俺の家には、最近小さな生き物が遊びに来ようになった。 別の家に住んでいるらしく、俺は衣食住の世話をしていない。だが、夕方つまみ出して家中の戸という戸を閉め切っても、翌日の朝や昼には「いえのあるじさぁん」と入ってきている。何故だ。おまえらどっから入った。 「ぴぎゃああああっ」 「ふええええええん」 「何事」 今日もアルバイトから帰ったら、小さい奴らがいた。しかし大泣きである。何事だ。 小さいのが一匹スピーカーに足突っ込んでばたばたしていて、それを何匹かが泣きながら引っ張っている。抜ける気配はない。 「あ、あ、あるじさああああっ」 「何事」 「ふええええええっ」 ぬけんのおおおぉと泣く奴から話を聞いてみる。大体こんな感じなようだ。 「よしの、あるじさんがな、スピーカーがいごかんきにこまっとんやて。なおせんかいな?」 「まかせ!おちゃのこさいさいぃー」 「そのいいかたはちょっとふるいとおもうわ」 衣琴が「スピーカー音でねえちくしょう」と言っていたのを聞いた平野が、吉野を引っ張ってきた。なんやーといっていた吉野も、様子を見て頷く。 スピーカーを指差していう平野に、吉野は二つ返事で作業にかかった。小さな手で工具を握り、ネジを外して上半身だけ潜り込む。 平野は体育座りでそれを見ていた。 「うどんうどんうどんーうどんーをーたべーるとーからだからだーからだーにーいいーのさー」 「なんやねんそのうたぁ」 「うどんのうたやで」 「またうど……みゅっ」 奇声を発し、一端吉野の動きが止まった。不思議そうにそれを見る平野。 不意に、吉野が足をばたばたさせ始めた。変わらず、不思議そうにそれを見る平野。 「どしたん?」 「……つまった」 「え」 「でれん」 ぷるぷるし始めた吉野。平野は文字通り飛び上がった。駆け寄って、その周りを回る。 様子を観察してみるも、すき間が全くない。 「あ、へーちゃーん、あるじさんおら、ん、の……それ、だれなん…?」 声に振り向けば、湖滋郎が近付いてきていた。始めはあの、特有のゆるゆるした笑顔だったのが、平野の後ろにある、穴に詰まった下半身を見て、笑顔が珍しく変わる。 「これ、よしの」 「だしてえええ」 「よしのくん………」 「どしたらええかな」 「ひっぱってみたらええんかなぁ」 よし、と二人は片足ずつ掴んでみる。そして引っ張ってみる。 「うにとこどっこいせー」 「どっこいせー」 「いたいいたいいたい!たいわぁあー!」 「だめや」 「だめやねえ」 「……ふったらでるんかな?」 「やめてへーちゃん、たぶんバランスくずしてつくえからよしのくんおとすよぉ」 「わいまだしにたないい………」 そして、今に至る、と。 何をやっても出てこ(られ)ない小さいのに、他のが泣き出したらしい。 おいこら小さいの、俺の服で涙拭くな。別に俺の知らない間にスピーカー直そうとしてくれたと分かったからって嬉しくないんだからな。 二匹を引っ付けたままスピーカーに近寄り、持ち上げる。「う、ういたっ?なに?なんなんー!」と言っているスピーカーをひっくり返し、詰まっているやつを下にする。 「あしちゅうぶらりんやあああっ」 「よしのー!!」 「よしのくんん」 「お前ら耳元でうるさい」 ポン!と一回強く叩く。 「きゃっ」 小さいのが外れて落ちた。ぽかんとしている外れて落ちた小さいのに、二匹が飛び降りて駆け寄る。 「わあああんよしのおお」 「よかったねぇよしのくんん」 「ふたりともおおみぎゅう」 あ、小さいのが一匹潰れた。 何かまた騒がしい様なので、菓子でも用意してやることにする。別にスピーカーがしっかり直っていたからという訳ではない。 ――――――――― 谷塚衣琴(やつかいこと)くん宅は遊び場とばかりに遊びに来る七年生。 backnext |