04




新学期始まって最初の話題は ハリー・ポッターとロン・ウィーズリーの奇妙な車の旅が攫っていったが、次に湧いたのはギルデロイ・ロックハートの授業だった。
下級生の授業ではピクシーを用いて、クラスを大混乱に叩き落としたらしい。ドラコによると、女の子は髪を引っ張られ結ばれるわ、捕まえようとした男の子は宙づりにさせられるわ、ロックハートは逃げるわで大変だったようだ。
4年生の授業では流石に懲りて、普通の授業をしてくれるだろうと思っていたが甘かったようだ。


「諸君にはこれがなんだかわかるかな?」


ばかばかしい小テストのくだりが済んで、ロックハートは完璧な角度で生徒たちにウィンクをかます。
前列のファンの子たちは黄色い声援をあげていたが、冷めている生徒たちはロックハート自身は無視してひと抱えほどもある鉄籠を覗きこんだ。


「ニフラー?」
「そうです、Ms.マルフォイ。この子たちは光り輝くものに吸い寄せられます。わたしやあなたのようなね」


ばちこん、と音でもしそうなウィンクを避けてディアナは苦笑する友人の後ろに隠れる。メアリがロックハートのファンでなくて本当によかったとおもう。


籠の中には20匹ほどのニフラーが詰まっていた。ふわふわの黒い毛並み、カモノハシのような赤い口、くりっとした目はとても愛らしい。
単体であればペットにもされるが、多頭であればあるほど収集がつかなくなる類の生物だったはずだ。ディアナの悪い予感は的中した。ロックハートは教室にニフラーを放ったのだ。
ピクシーでなくニフラーならば大ごとにはなるまい思ったらしいが、学習しないロックハートにディアナは大混乱の教室の中で舌を打つ。

女子生徒は高価ではないものの髪飾りやピアスなど装飾品をつけているし、昼休憩に売店に寄ろうと何人かの生徒たちは小銭を持っていたりする。
ちょこまか動き回る小さな愛らしい生物に、みんなどう対応したらいいのかわからないようで物を盗られないように逃げたり引っ張りあったりしている。


「やだ こっちこないで!」

メアリが髪飾りをねらってくるニフラーから逃げようと身を捻るのを制止させ、ディアナは手の中から金色に輝くものを床に落とした。

ちゃりーん、
金属が跳ねる音が教室中に響く。
いつの間にか全てのニフラーがこちらを凝視していた。ディアナが放ったのは、ガリオン硬貨である。


ちゃりん、ちゃりん、と手の中から次々にガリオン硬貨を落としていくと、ニフラーたちが標的をこちらに変えたようで群がってきた。
全部が集まったところで浮遊呪文でまとめて鉄籠の中にしまう。


「ブラーブォ!スリザリンに20点!」


どこに隠れていたのか、ロックハートが躍り出てきてディアナをみんなの前に立たせて褒めそやす。ディアナはロックハートの目の前でも構わずに、ロックハートに触れられた箇所をハンカチで払っていった。

「なんて大胆な手法でしょう!だがちょっと高くついたのではないかな?」
「構いませんわ、ただの飴玉ですから」


籠の中のニフラーが大事そうに持っていた硬貨は、ぽん と音を立ててキャンデーに姿を変わった。








空き時間にセブルスの自室でお茶をしながらディアナはぷりぷりと怒っていた。


「笑い事じゃないですわよ」
「ふふ…スリザリンの姫君はロックハートをゴミを見るような目で見ていたというが?」
「ゴミ以下ですわ!」


メアリの髪飾りは母親の形見でもある。そんな大事なものが汚されるのは我慢ならなかった。


「今からでも、教授が防衛術を兼任なさったらどうですか」


原作を読んでて「すごい人が教師になるんだなあ」とは思っていたが、これはとんでもない。自分が気持ちよくなりたいだけの人なのだ。こんな人を教師だと認めない。
なんやかんや嫌われつつも、生徒のために生きる人を身近に知っているから尚更のことだった。
セブルスはにやりと笑った。









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