刀剣 同田貫
最近この本丸でも江の者が来始めた。収集癖というものをそうそうみせなかった審神者が熱心に周回をするので、剛きを名に抱く江(ゴウ)の刀に嫉妬した田貫が赤疲労出陣を審神者に指示して困らせる話。
審神者はたったいま顕現を解いた剛直な刀に歩み寄り、すい、と持ち上げてその腕に抱く。この細腕には振り回せそうにはないな、と審神者は「ふは、」と笑いを落とした。
「よかったの、主」
近侍として控えていた加州清光が、襖を開けて隣室から声をかけてくる。「戦に出せ」「出さない、休め」と最早怒号にも近い声量で問答を続けていたが、同田貫にはこちらを害する気はなかったのだ。だから、加州も動かなかった。加州の後ろで、最近仲間に迎えた江の男士が目を白黒させている。この本丸の手解きをしていたらしい。
刺激が強すぎただろうか、と少しでも印象が和らぐようにと審神者はにこりと笑って見せた。
「戻したときに大変なんじゃない?」
「そこまでは考えてなかった」
「もー!また道場の壁が抜ける!!」
「苦労をかけるね、初期刀」
腕の中の刀がずしり、と重くなったような気がして目を向ける。刀を包む空気がどんより…いや、むっすりしている。
見た目はただの刀である。それを読み取り使役する審神者だからこそ読み取れる"気"に、審神者は笑みを深めた。
「赤疲労を圧して出陣しなくとも、お前は剛き刀さ」
伝わっていなかったとは心外だ、と笑うその口元を見て加州は同田貫に合掌して襖を閉めた。
その後3日ほど顕現を解いた状態で同田貫は審神者に連れ回された。「良き刀だ」「この時もこれこれで誉を取ってきてくれた」「流石は天覧兜割りの剛健」と賛辞を添えて。
1日目は刀も照れたようなもじもじした気を出していた。その夜にはぐったりと死んだようになっていて、3日経って人の姿に戻した頃には同田貫の目は虚だった。それを見た江の刀たちは震え上がった。
「どうだろうか、分かってくれただろうか?」
「分かった!分かったからもう勘弁してくれ!」
その後、同田貫のストレスの吐口となった道場の壁には大穴があいた。束の間平和な本丸に加州は野太い怒号が響く。