「ふつー、こーゆー仕事って、割り切ってやるもんじゃねーの?」
「感情を麻痺させた方が、多分、楽よね」

ミリアリアも頷く。
哀しいこと。苦しいこと。
伝えたいことを撮るには、あまりにも痛い現実を目の当たりにしなければならない。
だから、そういうものだと割り切って……感情を封印してしまえれば、どんなに楽か。
でも。


「……それじゃ、伝わらない……」


何も感じず、ただ目の前にある物を撮っても、それは現実離れした風景でしかありえない。
悲しみを感じて、写真におさめる。そのためにミリアリアは、カメラマンの道を選んだ。

「だからずっと、一人で回ってたんだ?」

ディアッカがオーブに遊びに来れば、ミリアリアは仕事を休み……あるいは早めに終わらせ、彼との時間を作っていた。
一緒に行きたいと言っても、頑として首を縦に振らず……今回初めて、彼女は強引についてこようとするディアッカを説得することが出来ず、取材に同行させる羽目になったのである。

だから、一人で来たかった。
泣いている姿など、見られたくなかった。
また、すぐにプラントへ戻って行くのだから――

「……なぁんか、戻りずれーなぁ……」
「え?」
「プラントに」

突然放たれた言葉に、ミリアリアはハッと顔を上げた。
神妙な面持ちのディアッカが……ミリアリアの涙をさらう。

「こんな風に……一人で泣かれたらなぁ……」
「これは……もう、職業病みたいなものよ」

手を払い除け、距離を取ろうとするが――振り払ったはずの手が、今度はミリアリアの身体を絡め取る。


「一人で泣くな」


優しい声が――
暖かな声が――
余計に、彼女の涙腺を緩めてくれる。

「あーあ、ザフト辞めて来よっかな〜」
「は? 何言ってんの?」
「やー、ケッコンして、夫婦で戦場カメラマンってのも、面白くねえ?」
「……バカ」

悪態つくミリアリアは……何だか少し、嬉しそうで。

「お? おい、上……」
「上?」

促され、空を見る。
透き通る青空を覆い隠すよう張られた、灰色の粉塵膜。その中を、鳥が飛んでいる。
白い鳩が一羽。
こんな……人間ですら息苦しさを感じる環境の中、力強く生きている命がある。

一人でも多くの人に知ってもらいたいこと。
一人でも多くの人に、この現実を嘆いてほしい。そしてこれ以上、こんな悲しい世界を広げないでほしい。


そんな願いを込め、ミリアリアは今一度、シャッターを切った――





-end-

結びに一言
ときたま書きたくなる問題提議系。兵器の余波で汚染された島を舞台にディアミリを。
たしかどっかで、地球で宇宙戦用の装備を使うと汚染が云々……という話を聞いた気がして……(違ってたらゴメンナサイッ)

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