結局、カズイと放したのは三十分少々だった。お茶を一杯飲んで、それで解散。
あっけない別れであったが、物悲しさはどこにもなく。

「良いのか? すっげー久々だったんだろ?」
「うん。ちゃんと約束したし」

ディアッカの問いかけにも、ミリアリアは満足そうだ。
彼女の手にあるのは、カズイの連絡先。彼もまた、ミリアリアの連絡先を手に、自分の家へと帰っていく。

「でも、すごいわねー、あんた」
「何が?」
「カズイのこと。どうしてあんなに分かったの?」


――今日、初めて会った人間のことなのに――


それが、ミリアリアには不思議でしょうがなかった。
何故あんなに、カズイの心中を読み取れたのか。

「ん〜、そーだなあ……」

彼は一度天を仰ぎ、そしてまた、ミリアリアに目を戻して。

「男だから、かな?」
「……意味不明……」

はぐらかされたと思い、ジト目になるミリアリア。
しかし彼には、そうとしか言いようが無かった。
目を見ている内に、感じたのだ。

彼が抱く、心の闇を。

「そーいやあいつ、カレッジに編入したっつってたよな?」
「それが?」
「羨ましかったりして?」
「何で」

ばっさり質問を切り落とされ、少々冷や汗を流しながら、ディアッカはとりあえず、話を続けてみた。
前々から、訊いてみたかったこと。

「だってお前は、退学って形なんだろ? 復学したいとか思わなかったのか?」
「ああ、そんなこと……」

呻き、ミリアリアは小さくなっていくカズイの後姿を見やる。

「未練が無いって言ったら、嘘になるけど……」

かと言って、戻る気にもなれない。
あの惨劇を体験して……いざ戦争が終わり、自分の身の振り方を考えたら……学生に戻ろうという気は起こらなかった。

それよりも、戦争の残酷さを伝えたいと。
戦争が、決して起こしてはならないものだと、世界中に知ってほしいと。

「ま、今も結構充実してるし。良いんじゃない?」
「前向きだね〜、ミリアリアは」

ぽん、と頭に手を置いて。
くしゃくしゃと髪をかき乱して。


「お疲れさん」
「……?」


――何が「お疲れさん」なのよ――


そう言いたかったけど、言葉は出なかった。
ただ、とにかく、ホッとしている。


なぜだろう……この一週間、頭を悩ませていたことが解決したためだろうか。
途端、気だるさが彼女の身体を支配し始める。


「……なんか疲れちゃった。ね、もう一回喫茶店入らない?」

――なんて言っても、ディアッカから文句は出ない。


「良いよ。ミリアリアさんのお好きなコースで」


力の抜けた返事が、不思議な心地良さをミリアリアに与えた。





-end-

結びに一言
……てゆーか、AA降りた後のフォローが全くないカズイ救済企画(爆)

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