「なんか、悩みでもあんの?」
「え?」
歩きながら、ディアッカは普通に話を切り出した。

「さっきから、浮かない顔してる」
「悩みなんて……そんな……」

言い当てられ、ミリアリアはバツが悪そうに俯いた。
しかし、本題に触れようとはしない。

「……じゃ、つまんねえ?」
「そんなことないっ!!」

力いっぱいの否定を受け、ディアッカは嬉しくなってしまった。
彼女の顔が晴れない理由は――何となく分かっている。
待ち合わせから、今、こうして二人で歩いていても、激しく注がれる強烈な視線。
全くなってない、バレバレの尾行と……それに怯えるミリアリア。


〈今に始まったことじゃねーな……〉


ミリアリアに聞こえないよう、ディアッカは小さくため息をもらす。


〈何で相談しねーんだか……〉


時々彼女は、理解できない行動を見せてくれる。一言「ストーカーがいる」と言ってくれれば、死に物狂いでとっ捕まえるというのに。
がしかし、普段なら、彼女が言い出すまで気付かないフリをする……なんて芸当をやってもみるが、ストーカーとなれば話は別。恋人を付け狙う不逞の輩を、野放しにはしておけない。

「ミリアリア……ちょっと、こっち」
「え?」

ディアッカは、都合よくあった小さな中小路にミリアリアを引き入れると、壁際に身を潜め、ジッと通りに意識を向けた。
捕獲大作戦発動である。
だが、全く説明も受けていないミリアリアには、何が始まったのかさっぱり分からず、

「ね、ディアッカ……何なの?」
「ん? ま、いーからいーから……」
「ええ? ちょ、わっ」

しわを寄せるミリアリアの眉間に、ディアッカは鬱陶しいほどのキスを降らせる。

「やだ、くすぐった……」
「もーちょっと。な?」

もう少し。
もうちょっと。
ほら、奴は近づいてきた。

三歩、二歩、一歩。

「――ぅわっ!!」
「!!」

突然響く驚愕の声に、ミリアリアはすかさずディアッカから離れ――同時か、それより一歩速いかのタイミングで、ディアッカも身を翻し、追いついた先で起こるラブシーンに硬直してしまった『視線の主』の腕を掴み上げる。
逃がさないように。

「〜〜たたたっ! 痛いっ! 痛いよっ!!」
「ったりめーだ! 痛くしてんだからよ!!」
「うわあああっ!」
「……?」

泣き声にすら聞こえる悲鳴に、ミリアリアは首をかしげた。
この声……どこかで聞いたことがある様な……
恐る恐る、ミリアリアは『視線の主』を見やる。ディアッカの身体越しに、そっと。
すると――

「ミリィ! ミリィ助けてっ!!」
「ああ? お前、何言って――」
「待ってディアッカ! 離してあげてっ!!」

思わずミリアリアは、ディアッカの腕にすがり、叫んでしまった。
予期せぬ現象に、唖然とするディアッカ。
それは、ミリアリアも同じ。彼女は『視線の主』に目を戻すと、呆然と声を発した。

「……何してるの……? カズイ……」
「は、はは……」

カズイと呼ばれた少年は、ただただ苦笑いをするだけだった。




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