二人は、近くの椅子に腰を下ろした。 「ねえ、あなたは一人なの?」 「ううん。一人じゃないよ」 少女は輝く笑顔で言い放つ。 名前を聞いても、秘密としか言ってくれない、正体不明の女の子。 「何で、この風船くれたの?」 「迷子の証拠だから」 「じゃ、あなたも迷子……?」 少女の手には、もう一つ風船がある。 やはり、真紅の風船が。 けど―― 「ううん。私は迷子じゃないの。これは、これから届けに行くの」 「届けに……?」 「迷子認定!」 「???」 話が突拍子も無さすぎて、ミリアリアは着いていけない。 そもそも、迷子認定とは何だろう。 「本当はね、お姉ちゃんに渡す予定、無かったの」 少女は呟く。 「でも、心細そうなお姉ちゃん見てたら、放っておけ無くなっちゃった」 「……そんなに、寂しそうだった?」 「うん。……じゃ、そろそろお兄ちゃんのとこ、行こっか」 「――え?」 お兄ちゃん?? ミリアリアは、誰と来た――なんて言っていない。それとも、はぐれる前……一緒にいる所を見ていたのだろうか。 驚くミリアリアを前に、少女は立ち上がり、再び手を出す。 「行こう。心配してるよ?」 「でも、動かない方が……」 「早く、お兄ちゃんに会いたいんでしょ?」 会いたい。 あって沢山文句を言いたい。 けど、闇雲に探したって、この人ごみじゃ見つからない…… 分かっているのに、ミリアリアは立ち上がった。 手をとって、しっかり繋いで、 「あなた……誰?」 恐々と訊く。 「内緒」 やはり少女は答えなかった。 |