「彼は軍人です。戦争に行く人です。だから、口では偉そうに“死”を覚悟していると言っていました。でも、突然『死にました』なんて言われたって、そう簡単に受け入れられません」
「……そう、ですね」

少女の瞳に宿る感情を汲み取り、ミリアリアは言葉を選んだ。

実際、彼女も受け入れられなかった。
死を直接目撃したわけではない。しかし彼女と違い、“死”の瞬間を、彼女は知っている。
目の前に広がる『SIGNAL LOST』を見た瞬間の衝撃は、忘れることなど出来ないだろう。

「憎みたくも……なりますよね」
「……!!」

憎む――その言葉が、少女の顔色を変えた。
彼女が抱く感情は、間違いなく憎しみだ。
愛するものを奪った“敵”への憎しみ。

「でも……憎しみに全てを任せた先に待ってるのは……苦しみだけ」

ミリアリアは話した。昔、自分が憎しみに駆られ、ある男を傷つけてしまったことを。
憎んで憎んで、ただひたすら憎んで振り上げたナイフ。それはかの男に、赤い血を流させた。

「苦しいこと、なんです。憎しみに身を任せるって。憎んだ先に待ってるのは、苦しみです。人を憎んで、傷つけた苦しみ」

彼を……ディアッカを傷つけた後、彼女は悩まされていた。
それは、恐怖にも似た苦しさ。
この手が、他者を傷つけた――

「それに、私の恋人を奪った人にも家族はいて……大切な人はいて。だから、憎しみをぶつけちゃいけないんです。そしたらまた……どこかで誰かが、私の様に、辛い思いをする。それは嫌です」

凛、と言い切るミリアリアを、少女は今までとは違う瞳で見ていた。
同じ境遇にいながら、彼女と自分は違う。

「強い方ですね、あなたは」

それが少女の感じたこと。
しかしミリアリアは首を振る。

「強くなんか、ないです」
「でも……」
「一人じゃなかったから……支えてくれる人がいたから、彼の“死”を受け入れられたんです」

その言葉に、少女は愕然とした。
今までの自分を思い返し……身体を震わせる。

彼の死を受け入れられなくて、閉じこもっていた日々。
彼女は、自分を気遣う人達を拒絶していた。
耳をふさいで何も聞かず、目を閉じて何も見ないで。

ただ、彼を奪い去ったナチュラルを憎むだけで……

この地に来たのも、ナチュラルへの復讐を誓うため。停戦なんて許さない……大好きなあの人を、ニコルを奪ったナチュラルに一矢報いる――その決意表明に来たのである。
だから最初、ナチュラルであろうミリアリアが声をかけてきた時、心の底では虫唾が走っていた。
彼女と同じ人種が、彼を殺した。
でも……自分と似たような空気も感じられて、無下な態度を取れなくて、どうしようかと悩んでいる内に、こんな話になってしまった。

彼女は強い。
同時に、彼女のような強さがほしいと思った。

「私は……」

曇り空から太陽の光がかすかに伸びる。まだ晴れ間は見えないらしい。
その空模様が、自分の、今の素直な心境と重なって感じられた。

「もう少し、かかりそうです」

すぐに全てを許すことなんて出来ない。
でも、どんなに時間がかかっても、この感情と決別したいと願った。
いや――する。出来る。

だから彼女は、笑顔を見せた。





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