向こうが何も言ってこないのを良いことに、ディアッカはムウに向かって声を張り上げた。

「おっさん! ここの卓に、コーラ四つ!」
「はいよ!!」
「あと、こいつ10分休憩ね!」
「おう! しっかり休めよ、嬢ちゃん!」
「は――ぇえええっ?!」

ミリアリアの休憩時間まで、まだ大分時間はある。しかしディアッカとムウは、本人を蚊帳の外に追い出して、勝手に休憩を決めてしまい……そのまま彼女は、ディアッカに押され、休憩室へ。

「ちょっと……私まだ、休憩なんて――」
「足、フラついてんだろ」

ミリアリアを椅子に座らせると、彼は、水に塗らしたハンカチを、彼女の額に乗せ……そして自らも膝を付いた。

「悪ィな。客、回しすぎたか……」
「そ、そんなことないよ。お客さん多いほうが良いに決まってるじゃない。私の体力が無さすぎたんだよ……」
「お前の体力考えてなかったから、俺のせい」

サンダルを脱がせると、足は少し赤くなっていた。そのままディアッカは、水を張った桶の中に、彼女の足をゆっくり入れる。
そして……悔しそうに、ぽつりと呟いた。

「……あーゆーの多そうだから、あえて女ばっか選んでたのに……」
「え?」

小さなディアッカの呟きが耳に届き、ミリアリアは声を上げてしまった。


あーゆーの。
つまり、ミリアリアにコナかける、かなりムカつく男性客。
だからディアッカは、女性客を斡旋していた……??


「……まさか、たまたま入った野郎が恐れていた系統だったとは」
「――って、私のため?!」
「だって、心配じゃん。実際絡まれちゃってるし……あーあ。お前さあ、いい加減、自分の可愛さ自覚しろよ」
「か――……!!」

ごく普通に可愛いと言われ、絶句してしまうミリアリアに、ディアッカは続ける。

「お前は可愛いよ」
「も……もういいっ!」

恥かしくて、ミリアリアは額に置かれたハンカチまで使って、顔を隠し始める。
くっ、と笑うと、ディアッカは甘く止めを刺した。

「そんな姿も可愛い」

ミリアリアの顔が、一気に火照る。

「おいおい、休憩10分しか無いんだぞ? そんなに赤くなって……戻るのか?」
「戻るわよ! てか、戻すっ! だからあんたは先戻ってて!!」
「へいへい」

ここは抵抗せず、素直に戻っていくディアッカ。
その後――休憩時間10分をフルに使い、熱を冷まそうとするミリアリアだったが……結局、少しだけ赤いまま、店に戻ることになったという……





-end-

結びに一言
書いてる本人、まさかこんなド甘なラストになるとは……ノープランって怖い(爆)

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