店に出たら、そこはもう戦場だった。さすが海開き一日目。しかも雲ひとつ無い晴天の上、陽が照りつけ、じりじりとした暑ささえ感じてしまう。
店の中はお客さんでいっぱいで、人の熱気がうずまいているし……


〈い……忙しすぎ……〉


AAでの激務を体験していたミリアリアは、正直、海の家の接客を甘く見ていた。
本物の戦場を潜り抜けてきたのだ。あれと比べれば、海の家のアルバイトなんて……大変だろうけど、何とかなると深く考えていなくて。
しかしどうだろう、この忙しさは。激しい暑さも手伝って、変な話、命の危険すら感じてしまう。

一方で、ディアッカと言えば――

「四名様ご案内〜。はい、こちらの席にどーぞ」

――主に客引きをしているのだが、おかしなことに、彼が連れてくる客は女性ばかりだ。
ディアッカが女性客にしか声をかけないのと、女性客がディアッカに寄って来るのと……相乗効果で、店内は女性客で埋め尽くされている。


〈何よ……鼻の下のばしちゃって〉


仕事だから仕方ないのだが、女性に対して愛想を振り撒くディアッカの姿は、激しい苛立ちを与えてくれる。
と――

「すいませ〜ん」
「あ、はーい!!」

店の奥から手が上がり、ミリアリアは卓へと駆けつけた。
それは、この店内では非常に珍しい『男性客』からのもので。

「コーラ四つ、追加ね」
「はい、コーラ四つ……」
「しっかし可愛いね〜、君」
「は?」

突然話が自分に及び、驚いたミリアリアの目に飛び込んできたのは、にやける男性客四人の顔だった。
視線がひどく、気持ち悪い。

「ねえ、名前なんてゆーの?」
「な、なんで……」
「歳いくつ? 彼氏いたりすんの?」
「こんなとこいないで、俺らと遊びに行かない?」

次々にやってくる質問は、深い極まりないものだった。見知らぬ男たちからの絡み……はっきり言って、嫌悪感しか覚えられない。
かと言って、相手は客。邪険に扱うことも出来ず、黙って俯いていると、痺れを切らせた男の一人が、表情を不機嫌なものに変えた。

「おい、勿体ぶってんじゃねーよ」
「――!!」

男がミリアリアに手を伸ばす。
振り払いたくて仕方ないが、そんなことしたら、マリューやムウに迷惑をかけてしまう……そう思ったら、動けなくなった。
身体を固め、目をぎゅっとつぶっていると――突然、後ろに身体を引かれ――


「はいはい、そこのイケメンお兄さん方〜。うちのお姫様を誘惑しないでね〜」

耳元で、かなり陽気なディアッカの声が響いた。
ミリアリアは、ただただびっくりして動けない。
それは、ミリアリアに絡んだ四人の男性客も同じのようで――かなり顔を引きつらせている。


まるで、鬼や悪魔でも見てしまったような――



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