その日ミリアリアは、不思議な衝動に駆られていた。
なぜ……なんて説明できない。ただ、無性に行かなくてはならない気がして。
悲しい思い出の眠る、あの“島”に。

「……あれ?」

導かれるような感覚の元、岩場を歩くミリアリアは、ある一角まで歩いて目を細めた。
女の子がいる。
ふわふわとなびく髪、華奢な体つき……何より目を引いたのは、その服装だ。冬の海風が直に当たる島で、あの軽装は無謀すぎる。
足は躊躇することなく、少女へと進んだ。

「そんな格好じゃ、風邪をひきますよ」
「え?」

彼女が振り向く前に、ミリアリアはショールを肩にかけた。
同時に、眼前にて姿を確かめ、その幼さに驚いてしまう。自分と同じか、年下か……その割りに、瞳は、自分と同年代の少女がそう簡単に作れるものではない憂いが見て取れた。
おかしいとは思いつつ、自分と似た空気を感じてしまう。

「でも、あなたは……」
「私はジャケットもありますし、古い物ですけど、使ってください」
「では……ありがたく使わせてもらいます」
「いえ、そんなたいそうな物じゃ……」

会話はここで途切れた。

今、初めて会った二人。もちろん共通の会話など見つからないし、一つだけ……この島に来た理由とか、そういったことを口に出せば、こんな沈黙は無いのかもしれないが……

出来ない。

そこはきっと、立ち入ってはいけない世界だ。
本能が伝える。
でも、危うさすら見える少女を、放ってはおけない。

だから一緒に、海を眺めた。

静かな海。空には厚い雲がかかり、悲しみの瞬間を思い出させる。


――この人は、何を思って海を見てるんだろう……


ふと視線を少女に向け――ミリアリアは息を呑んだ。
彼女の瞳から、涙が溢れている。

「……あ、すみません……」

ミリアリアの視線に気づき、少女は一生懸命涙をぬぐった。しかし、雫が止まることは無い。
仕方なくそのまま、彼女は口に出した。

「えと、その……実は……婚約者が…………亡くなりまして」

出来るだけ空気が重くならないよう、作り笑いすら浮かべて紡がれるのは、彼女がこの地に来た理由。

「本当は、もっと早く来たかったのですけど……私は、この地に来るのは……少々難しい場所に住んでいて……」

瞳がかげる。

「こんな場所で、あの人は……」

海に向かい、哀しくつぶやき……ようやくミリアリアは気がついた。
似ているのではない。同じだと。
彼女のこの姿は、きっとトールを亡くした瞬間の自分――

「私もここで……この島で、恋人を亡くしました」

我知らず、彼女はつぶやいていた。
ミリアリアの恋人――トールが亡くなったのは、正確にはもう少し離れた島なのだが……オーブではこの群島をまとめて“島”と称している。細かい説明も面倒だ。
“島”で失ったことに間違いは無い。

「あなたも……?」

少女は驚き、ミリアリアを見やる。

「私の場合は戦争で……彼、パイロットだったんですけど……」
「――同じです」

息を呑み、少女は続けた。

「私の婚約者もパイロットで……ここで亡くなったと、聞きました」

海を見、島を見、土を踏みしめ、嘆きをもらす。



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