入るとそこは、闇。白い霧が足元に立ち込め、かすかだが、風のなびく音も聞こえる。
基本的には無音――と言っても良い。
そんな世界を、二人は歩いていた。

「うわ〜、本格的〜」

響くのは、ミリアリアの陽気な声。
楽しんでる。ものすごく、この空間を楽しんでいる。
ああ、やっぱりこういう反応なんだな、と思いながら、ディアッカはライトを持ち、前を歩いた。

彼は一応……爪の垢程度ではあるが、こんな展開も期待していた。



「きゃーっ、ディアッカ、怖いーっ!!」



と叫び、ミリアリアが抱きついてくる展開。
この見込みが無い以上、逆に、



「わーっ、ミリアリア、怖いーっ!!」



と抱きついて恋人的雰囲気を演出――……いやいや、これは虚しい上に自分の株を下げる行為でしかありえない。

そう。別にディアッカは、怖いから渋っていたわけでは無いのだ。
これでミリアリアが、彼が欠片ほどだが期待した展開に動いてくれるなら嬉々として入ったのだろうが……ただ暗闇を闊歩するのは、かなり退屈である。
そうこうしている内に、背後から不思議な声が上がった。

「……そういえば……ディアッカ、前歩いて平気なの?」
「なんで?」
「だって、怖いんでしょ?」
「あのなー……」

自信を持って訊いてくるミリアリアに、ディアッカは肩を落とす。

「ミリアリア、それ、本気で――」



がこんっ!



彼がミリアリアへと振り向いた瞬間、声を遮る様に、大きな物音が鳴り響いた。
大きな物が、そこそこの高さから落ちるような音。

「びっ……くりしたー……何の音?」
「さあ、演出じゃねーの?」

辺りを照らしても、それらしい『落下物』は見つけられない。

「何? びっくりした?」
「そ、そりゃ、するわよ」
「じゃ、手ェ繋ぐ?」
「いらないっ!」

ふんっ、と威勢良く、ミリアリアは歩き出す。ディアッカを置いて、一人、先へと。
その時、ディアッカは見逃さなかった。彼女が自分を追い抜かしていく最中、手を微かに震わせている様を。

どうやら、今の物音がきっかけで、ミリアリアの恐怖心にスイッチが入ったようである。


〈強がっちゃってまー……〉


くっく、と声を押し殺して笑っていると、今度は身体に、何かが激突してきた。




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