ディアッカは葛藤の中、やはり正直に言う気になれず、それらしい悩み――それこそ、自分がオーブに住むことで両親が心配している云々――なんて問題をでっち上げ、この場を何とか取り繕うとした。
――が。


「まさか、明日のお返しがまだ決まってない〜、なんて間抜けな悩みじゃないでしょうね」


ミリアリアの方が、先に動いてくれた。
彼女としては、ディアッカが本気で悩んでいるから、場を少し和ませようとしただけなのだが……逆に大いなる沈黙を呼ぶ結果となってしまって。

玄関前にミリアリア。
数歩離れた所にディアッカという形で、時間が止まってしまう。


沈黙。
ただ、沈黙。


「……まじ?」
「悪いか?」

ディアッカは否定しなかった。
する気にもなれない。

「……あんたが、そこまで馬鹿だったなんて……」
「悪かったな、馬鹿で」
「悪いなんて言ってないじゃない」

ただ、意外すぎて。
女性慣れしている(としか思えない)ディアッカが、プレゼント一つで悩むとは思わなかった。
前日になっても、こんなに頭を悩ませるなんて。


――私の、ために……


「……まだ、決まってないんだ」
「だから悩んでんだろ」
「そうよねー……」

困るディアッカの顔が可愛い。
すごく、愛しい。

「……クッキー……」
「クッキー?」
「うん。クッキー食べたいな、私」
「え? 今?」
「明日よ、明日」

そこまで言われ、初めてディアッカは、彼女が明日のプレゼントのおねだりをしていることに気がついた。

「クッキーって……え? 普通の?」
「うん。あ、チョコチップが入ってる方が良いかな。この頃全然食べてないんだ」
「……そんなんで良いの?」
「うん。満足」

何よりも、ここまで自分の事を考えてくれたことが嬉しくて。
手をひらひらさせて、ミリアリアは家へと戻っていった。




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