「……ん?」

もう少しで、自分の家。目を凝らせば、我が家が見える――と思って自宅を眺めると、家の前に人影を見つけた。外はね髪のシルエットが、一目で誰なのかを教えてくれる。

「ミリアリア?!」
「あ、ディアッカ。良かった」

驚くディアッカとは対照的に、何時から待っていたのか――ミリアリアは小さく手を振った。

「良かったって……まあいいや、とりあえず中に――」
「ううん、良い。もう帰らないと……」

時計に目をやるミリアリアは、残念そうにつぶやいた。

「あー……じゃ、送る」
「ありがと」

柔らかく、ミリアリアは笑って……ディアッカは、心底後悔した。


――さっさと帰ってくれば良かった――


いや、出かけなければ良かった。そしたら、キラとラクスの二人の世界を見ることも、アスランのコーヒー代を立て替えることも、ムウに抱きつかれた挙句、あのバカップル夫婦に足蹴にされることも無かったのに。

ミリアリアと、仲良く一日過ごせたかもしれないのに。

「……で? どうしたのさ、今日は」
「うん……」

太陽の落ちきった夜道を歩きながら、ディアッカが問いかける。するとミリアリアは、軽く呻いて目を伏せた。
何か、考え込むように。どうやら、話の進め方を決めかねているようだ。


不用意に声を発せない、痛い沈黙が訪れる。


「あの、ね?」

一言目から大分経って、ようやくミリアリアは二言目を紡ぎだした。
意を決して、訊く。

「ディアッカ、悩み事無い?」
「なやみ――ごと?」

一瞬、心臓が縮まったかと思った。
確かにここ数日、ディアッカは悩んでいる。それを表に出したつもりなどなかったが――


「今も、悩んでるでしょ」


ミリアリアは、ずばり言い当ててくれる。

「何悩んでるの? あんたらしくない」
「うーん、まあ、そーなんだけどよ……」


――真面目に言って良いものか。


言えるものなら言っている。訊いているだろう。「ホワイトデーに何が欲しい?」と。



ミリアリアの家が近づく。
もう、視界の端に入っている。



言う? 言わない??
悩めば悩むほど、ミリアリアの家は大きくなっていく。




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