雨が降ってるし、ミリアリアは仕事中だし、ここでこうしていた所で、どうにかなるわけでもない。
帰ろう――何度もそう思った。
何度も何度も帰ろうとしたが、どうしても、一度地面についた腰は、なかなか上がってくれなくて。


夜の帳が訪れる。


「……ぁあ? いつの間に、こんな暗く……」

虚ろに時を過ごした結果、ディアッカは、陽が落ちるまで家の前にいた。
それでも彼女は帰って来ない。

「あーあ。いい加減、帰った方が良いよな〜……」

本日何度目だろうと言う台詞も飛び出す。
けど、足は動かない。


今日、逢いたい。
逢うまで、帰れない。


「……ったく、早く帰って来いよ……」

こつん、とドアに頭を預けて。

その時、声が響いた。



「…………ディアッカ?」



ちょっと高めの、窺うような声。
声で分かる。ああ、帰って来たんだな、と。

静かに目をやれば、頭に思い描いた人物が、驚愕に顔をゆがめて立っていた。
なんであんたがいるの――? 帰宅したミリアリアの目は、そう尋ねている。

「おかえり」
「じゃないでしょ! いつから――って、こんな冷え切っちゃって!!」

鞄を放り出し、ディアッカに駆け寄ったミリアリアは、その手の冷たさにも驚いた。
三月の夜は、まだ寒い。なのにディアッカは結構薄着で……たまらず彼女は、自分のストールを彼の肩にかけた。

「どうしたのよ、こんな夜に。仕事だってメール、届かなかった??」
「見たけど、今日逢いたかったから」
「なんで今日なのよ」
「だって、ホワイトデーじゃん」
「…………え?」

そして、ミリアリアは引きつった。

「あれ? 今日って3月14日……?」
「……もしかして、曜日感覚から無くなってた??」
「……………………」

この頃、忙しいと嘆いていたミリアリア。
ああ、そうか……今日がホワイトデーってことから忘れ去っていたのか……

なぜかディアッカはホッとして、脱力してしまった。

「ごめんディアッカ……なんか、色々考えてくれてたのよね??」
「ああ……や、良いんだ。うん」
「けど――」
「ホワイトデーだから大切ってわけじゃねーしさ」
「でも、今日逢いたかったって……」
「俺はミリアリアに、毎日逢いたいけど?」

言ってディアッカは、ミリアリアを抱き寄せる。

「今日逢えた。明日も逢えたら嬉しい。毎日毎日、ずっとそんな感じだからさ。逢いたいと思ったら……梃子でも逢いたくねえ?」
「……ディアッカらしい」

くすりと笑い、ミリアリアもディアッカに抱きつく。

「今日はゆっくりしていって」
「そのつもり」

そしてもう一度、強くお互いを抱きしめた。




-end-

結びに一言
大切な日だから、というわけじゃなくて。
いつでも、どんな時でも、逢いたい時は逢いたいから。逢えないのは寂しいから。
だからミリィさんを待っていたディアさんを一つ。

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