「……どうしたの?」
「べっつに〜?」

明けて翌日、15日。ミリアリアはディアッカの家に遊びに来ていた。
この頃ミリアリアは、週に二、三回は、彼の家に足を踏み入れている。


注意しなくてはならないのは、二人は決して、付き合ってるわけではない――ということ。


現時点では『お友達同士』なのだ。

でもディアッカは、ミリアリアが好きで。
ミリアリアも、それは知っていて。

……ちょっと……いや、かなり微妙な関係と言えようか。

で、今日も遊びに来てみれば、ディアッカはなぜか不機嫌だ。

「別にって……なんか、怒ってる感じ……」
「何? じゃあ、ミリアリアさんは、俺が怒るような事でもしたわけ?」
「なんでそうなるのよ!」

思わずミリアリアは怒鳴ってしまった。

なぜ、そんな事を言われるのか――ディアッカの態度に猛反発するミリアリアだが、彼もまた、引く気は無かった。


「少しは罪悪感でもあんの? 俺にだけチョコ渡し忘れてるって」
「チョ――は??」

思いもよらぬ単語の出現に、ミリアリアは耳を疑う。
チョコ??
チョコとはまさか……バレンタインのチョコレートか??
でも、それは――

「……いるの?」
「は? バレンタインなんだぜ?! 何で俺はチョコもらえないの?! すっげーショックなんだけど!!」

当たり前の様に、ディアッカは呆れている。
まさかこんな反応が返ってくるとは。

「けど……昨日は……」
「あーあ。操舵士にまで渡したのに、俺には義理の一つも無いってか?!」
「あ、あんた見てたの?! 嘘、サイテー!!」

話は、いつしか別の方向に転がろうとしていた。
しかしそれは、ディアッカの咆哮で軌道修正される。


「そりゃ見るだろ! 人ン家の前であんだけ大きな声で話されちゃ、気になって見るだろーが!!」


肩で息をするディアッカは、明らかに怒っていた。
もとい――拗ねていた。
子供の様に。


本当に本当に……彼はミリアリアのチョコレートを、楽しみにしていたのだ。


「……どこから見てたのよ」
「お前が家の前うろうろしてる時から」


つまり、最初っから。


「じゃ、はなし、全部聞いてたんでしょ? なら……」
「……欲しいモンは欲しいんだよ……それに……」

目を伏せ、ディアッカは言った。



「出来れば、二人で過ごしたかった」



大いなる悲しみの日を、二人で。


「……分かったわよ。私が悪かったです。ごめんなさい」


脱力し、ミリアリアは小さく謝った。
ディアッカのため、とごちゃごちゃ考えて……それが全て裏目に回って。

何だか泣きたくなってくる。

「来年は、ちゃんと作るから」
「来年?」
「今年はもう終わっちゃったし……だから、来年。……駄目?」
「いや、問題ないけど……」

途端、ディアッカは顔を明るくした。


〈それって、来年も一緒にいる気があるってことだよな?〉


本人無意識の確約登場に、ディアッカの機嫌は一瞬で直ったのだった。



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