その日ミリアリアは、リビングのソファーで日の出を見た。

――全く眠れなかった。

手には、昨夜ディアッカから託された銀色の指輪。彼女は昨日、家に帰ってからずっと、この指輪を手にしている。
まだ、はめてはいないが。

「……何よ、いきなり、こんな……」

指輪を眺め、薬指に重ねてみたりする顔は、ほんのり赤味を帯びている。


多分、きっと、これは…………エンゲージリング。


……だと思う。

「……で、良いのよね……?」

はっきり言われたわけでもない。
聞いてみたわけでもない。
勝手な想像――


だけど――



――そうだったら良いのに――



「ぅわああああああ……」

誰も見ていないのに、自然と手は、火照る顔を隠している。

望んでしまう、二人の時間。
ずっと一緒にいられたら……



ずっと一緒にいたいから。



「……なんて顔してんのよぉ……」

鏡を見れば、茹蛸状態の自分の姿。
ディアッカは、返事はすぐじゃなくて良いと言っていたが……次に会う時、一体どんな顔をして会えと言うのか。
まさかあのディアッカが、一週間も放っておいてくれるとは思えない。

まあ、さすがに翌日やってくる、ということは無いと思うが――



ピンポーン。



「……え?」

随分タイミング良く鳴る呼び鈴に、ミリアリアは一抹の不安を覚えた。
いや、あの男じゃない。あんな去り方した輩が、翌日のこんな朝早くから押しかけてくるなど、あるはずない。
というか、あったら困る。

「……そーよね。きっと、訪問販売の大安売り……」

自分に言い聞かせながら、彼女は玄関の扉を開けた。


「よお」
「――――」


目が点になる。
居てはいけない男が、本当にいて。

思わずドアを閉めてやろうか――そんな考えすら脳裏を過ぎったが、

「一つ、確認」

開かれた扉を押さえ、お酒の匂いすら漂わせるディアッカが、昨日と変わらない真剣な瞳で問いかけてくる。

「分かってる、よな?」
「何が?」
「その、指輪の意味」

アスランと話して、思いが伝わってないかもしれないと気がついて。
それからは、とてもとても不安だった。

ありったけの勇気を振り絞った割に、言葉がほとんど足りてない。
思えば思うほど、ただのプレゼントと取られているんじゃないかと焦りが生まれる。

一晩中、アスランと酒を酌み交わしていたものの、いつしかその不安に耐え切れなくなったディアッカは、明け方にはつぶれてしまった家主をおいて、一人、ミリアリアの家まで来てしまったのだ。


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