「っだあああああ!!」

突然――何の前触れもなく叫びだすディアッカがいる。
いや、前触れはあったか。一応彼は、事の詳細を――それは細かく説明していた。その最中の奇声である。
前触れと言えなくもない。
一方、滅多に聞けないディアッカの取り乱し声を大音量で受けてしまったアスランは、耳を塞ぎながら、抗議の視線を送った。

「……ディアッカ」
「なんだよ」
「……せめて時間を考えてくれ」

ただ今――草木も眠る深夜1時、おまけに場所は、アスランの自宅である。ミリアリアと別れたディアッカは、その足でアスランの家にやってきたのだ。
そして始まったのが、本日――もとい、昨日行われたデートの解説。やれ、どこ行っただの何食べただのどんだけミリアリアが可愛かっただの……良いだけ惚気た後、彼は発狂した。

……少なくとも、アスランの目には、そう映ったらしい。

「近所迷惑もいいとこだ」
「お前さ、その前に、何があったとか訊かねーのか?」

アスランの正論に対し、ディアッカは不満をぶつけてくる。
どうやら彼は、ことの顛末を訊いてほしいようだが、哀しいかなアスランに、その意思は全く無かった。

「……一つ訊いて良いか?」
「何でも訊いてくれ」
「俺とお前って、こんな夜遅くに突然押しかけてきたり、冷蔵庫の中勝手に開けて酒物色したり、挙句の果てにお悩み相談なんて出来たりするほどの仲とは、到底思えないんだが……」
「ひでぇっ! それが元同僚に対する言い草かっ?!」
「だから、もう少し音量下げろって!」

思わずアスランも叫んでしまった。
――テーブルを叩くという、オプション付きで。

「……訊けばおとなしく帰るんだな?!」
「実はよー、ミリィに指輪渡しちゃったんだよ」
「プレゼントか? それが一体――」
「左手の薬指にはめて、って」
「…………左手の、薬指」
「あーっ、もう、何であんな言い方しちまったんだーーーーーっ! もっとあるだろ、こう……聞いただけで転ぶくらいロマンチックな言葉とか!!」

叫び、頭を抱えるディアッカの口を塞ぎたくてしょうがないアスランだったが、彼の悶えっぷりを見ている内に、そんな欲求も消えてしまった。
そして考える。


左手の薬指へのプレゼント。


「それって…………そういうことだよな?」
「決まってんだろ!!」
「……遠回りすぎないか?」
「は?」

アスランの指摘に、ディアッカは目を点にした。
『左手の薬指』。彼らの間だと、その意味は暗黙の了解として伝わったが――

「はっきりと、言葉に出したわけじゃないんだろ?」
「おお」
「……彼女、ちゃんと理解してたか?」
「…………」

さあ思い出してみよう。数時間前の、ミリアリアとの別れ際の出来事を。

ミリアリアは指輪を受け取って……


……きょとん、としてはいなかっただろうか。


途端に不安になってくる。
指輪に込めた自分の気持ちは……伝わってないかもしれないと。

「……もしかして俺、格好悪すぎ?」
「……まあ、飲め」

外しちゃいけないところで、思いっきり空回りしてしまったかもしれない哀れな元同僚のグラスに、アスランは豪快にワインを注いだ。





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