こうなったら意地でも渡してやるもんか――
ミリアリアが心に誓った。包みを鞄にしまい、何事もなかったかのように談笑。ディアッカも、包みに話を戻さない。それは料理を食べ終わっても変わらなかった。
――皿を下げられるまでは。

「……え?」

それまで舌鼓を打っていた皿が無くなり、入れ替わりでやって来たのはチョコレートケーキ。

「私、これ、頼んでない……」
「ああ、俺が頼んだの」

さらりと言うディアッカの前にも、同じケーキが用意されている。

「これがまた美味いんだ」
「そ、そう……」
「ま、たまには良いんじゃないか? こういうのも」

不思議な言い回しに、ミリアリアは首をかしげる。
するとディアッカは、

「男から渡すチョコレート」
「…………ディアッ……」
「ついでに、お前の誕生日も一緒に祝うってのも」
「――――え、」

ミリアリアは言葉を失った。
これはディアッカなりの気遣い。自分が忘れたバレンタインのイベントを、こうやって実現してくれて……感動も覚えた直後の宣告にぎょっとする。



誕生日。
たんじょうび。
生まれた日。

ああそうだ、と思う。
バレンタインから三日が過ぎようとしているのだから。
今日は誕生日じゃないか、と思いだす。

「やっぱり忘れてた」
「……ありがとう。今思い出した」
「何のなんの。本命チョコ貰えなくて拗ねた結果、一括りにして祝ってんだから、お互い様なんじゃねえ?」

くくっと笑い、ディアッカはケーキにフォークを刺した。
真似て、ミリアリアもスポンジを口に入れる。
ほろ苦い、チョコの味。

「美味しい……」
「だろ?」
「で?」

フォークを置き、ディアッカの瞳がミリアリアを捕らえた。
吸い込むような深い瞳で、彼は問う。

「くれないの?」
「で、でも……」
「本当に、俺のじゃないとか?」
「……そうじゃない、けど……なんか、このケーキの後って……」

色々、渡し辛いものがある。
それでも、ディアッカは問い続ける。

「待ってんだけど」
「う……」

彼は退かない。きっとミリアリアが素直になるまで、この体勢を変えないだろう。
彼女は腹をくくった。
恥ずかしいのを我慢し、ゆっくり包みを取り出す。

「……安物、だけど……」
「値段なんか関係ねーよ」

最終的に、ミリアリアは自分が一番引っかかっていた、これが「バレンタインではなくホワイトデー用のチョコレート」である事実を伝えられなかった。
喜んでくれれば良い。ディアッカが、ただ喜んでくれれば良いと、祈りに祈って。
するとディアッカは、本当に気にしてない様子で包みを受け取った。


「ありがとう」


満面の笑みで。
反則と言えるほど、満面の笑みで。
この笑みを見てしまっては、もう、ミリアリアの負けである。



〈……来年こそ、頑張ろう〉



一年後に向かい、ミリアリアは新たな決意を掲げた。





-end-

結びに一言
どうもこう……バレンタイン話を書くとこういう方向に。
今のところ、二年連続で忘れてます(爆)

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