ディアッカと別れて、唐突に今日が「2月14日」であることを思い出した。
さすがに、当日に会ってるのに話題すら出さないのはどうなのか。


そんなことより――渡したい。
チョコを、ディアッカに、渡したい。
だって、色々考えていた。バレンタインがまだ先のことだった去年の末、次のバレンタインは豪勢な手作りチョコを作って驚かせてやろうと思って、チョコ菓子作りの本まで買ったのに。
……本音をちゃんと言葉にすれば、自分の手作りを、ディアッカに食べてほしくて。

だからせめて、バレンタイン「らしい」、ちょっとお洒落なチョコを渡したかったけど、入る店はいる店、みんな目ぼしいチョコは売り切れ。結局、「らしい」チョコは手に入らなかった。
それで、肩を落として歩いていた……のに。

「なーんか、色々必至だったなあ」

ディアッカの口角が、完全に上がっている。

「なんで、声、かけてくれなかったのよ……」
「んだから、タイミング無かったって言ってんじゃん」
「って……あれからもう、一時間も経ってるのよ?!」


一時間――それはミリアリアとディアッカが別れてから経過した時間。
あれから一時間経っている。つまりディアッカは、一時間もの間、ミリアリアを追いかけていたわけで。

「寒くないの?!」
「お、今日は優しいのな。いつもなら『変態』発言の一つや二つ、飛んできてもおかしくねーのに」
「あのね――」
「つーかさ、覚えてないの?」

茶化すように、ディアッカは首を傾けた。

「俺、チョコ貰ってるよ?」
「――は?!」

ディアッカの爆弾発言が、ミリアリアの目を丸くさせる。


貰った?
いつ?!
ぱちぱちと大げさに瞬きさせていると、彼は吹き出し、堪え切れない笑いを何とか最小限に抑えながら言った。

「ほら、待ち合わせ場所で」
「待ち合わせ場所?」
「俺、遅れてきたじゃん」
「そぉねえ」
「待ち合わせ、外だったじゃん」
「うん。すごく寒かったわ」
「だから、あったかい物飲んで、寒さ凌いでたんだろ?」
「そうよ」
「で、遅れてきた俺にも分けてくれたじゃんか」
「そりゃ、あれだけ寒い寒い言いながら来たら――」
「あれ確か、ホットチョコレートじゃなかったっけ?」
「――――」


時が止まった。
完全に。

ああ、そういえば。
飲み物を買いに行った時、最初はコーヒーにしようかと思ったけど。
甘い物が飲みたくなって。
そう。ホットチョコレートを買ったんだった。


「俺、素であれがバレンタインのチョコだと思った」
「そんな薄情なこと……」
「いや、お前ならありえるから」
「…………あ、あんたって……」
「何?」
「……………………なんでもない」

言い返す言葉も浮かばず、ミリアリアは下を向く。
だめ。完敗。完全に、ディアッカの勝ち。
何が負けで何が勝ちなのかよく分らないけど。

「……じゃー、そろそろ行くか」
「どこに?」
「二本向こうの通りの喫茶店、今日は11時まで営業してんだって。ほら、さっきチラシ貰ってさ」

ディアッカが取り出した小さなビラは、とある喫茶店の2月14日限定・特別メニューのお知らせだった。
11時の閉店まで、まだ時間は残っている。

「特別に、チョコレートケーキ奢ってやるよ」
「……バカ」

ディアッカの肩を小突くミリアリア。
彼女はそのまま、手をディアッカの手に絡めていった――





-end-
結びに一言
イメージ的には終戦後、のほほんと円満な関係を築いているであろうディアミリの風景。
ホットチョコは…ありがちなネタなような気がして反省中;;

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