「あいつ、マジでやったのか!!」

おなかを抱えて笑う人物がいる。
ディアッカだ。夜、ミリアリアの元にやって来たディアッカは、アスランが何を贈ったかを聞くや否や、涙を浮かべて笑い出してしまったのである。

「あんたが笑わない」
「へいへい」

彼もまた、アスランにプレゼントの助言をした一人である。
とは言え、アスランが叩かれる姿が見たくて言ったわけでは無い。
アスランがミリアリアにプレゼント――なんて言われても、しかも彼女を喜ばせるものとなると、「形ある物」では全く思いつかなかったのだ。
それこそ、こんな物しか。





[ミリアリア専用・アスラン平手打ち券]くらいしか。





要は、その券を渡しさえすれば、好きな時にアスランを平手打ち出来る――という、すごく過激なプレゼントである。
しかしディアッカも、まさかキラやイザークまで同じ物を提案しているとは思わなかった。

「スッとした?」
「うん。結構ストレス解消かも。えーと、券はあと、四枚か……」

律儀に五枚綴りで作ってきたアスラン。つまり彼は、五回も叩かれる覚悟を決めた、ということで。

「有効期限書いて無いし、全部使わせてもらお」

最重要の注意事項はただ一つ。
カガリに、このチケットの存在を教えないこと――


〈それにしても……律儀な人〉


思い出すだけで、笑いがこみ上げてくる。
カガリが間違えて覚えていた事への、ちょっとした悪戯で、彼もちゃんと分かっていたのに、こんなプレゼントまで用意してくれて。
実際、ミリアリアはそれだけで嬉しかった。
嬉しかったが――使わないのも実に勿体無いプレゼントである。

そこまで思い巡らせ、ミリアリアはふと気がついた。
顔を上げ、ディアッカを見て、なんとなく切り出す。

「……ねえ」
「ん?」
「忘れてない?」
「何を?」
「……なんでもない」




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