「大丈夫だいじょうぶ。スノーモービルには、盗難防止と遭難者早期救助のためのGPSだって内蔵されてるし、すぐ助けに来るさ」
「そんなこと言ったって……」

頬を膨らませ、ミリアリアは呟く。



「……怖かったんだから……」



きゅっ、と自分の身体を抱きしめる。

「本当に、死ぬかと思ったんだから……」

停止装置が機能しなくなったスノーモービルは、ただひたすらに加速を続け、そのスピードだけでも泣きたくなった。
おまけに、雪壁への衝突劇である。もう、ミリアリアの心は恐怖で壊れる寸前である。

「悪かったって。あんま、心配かけたくなくってさ」
「どう心配かけないで乗り切る気だったのよ」
「って言ってもさ? ブレーキ壊れましたって宣言するタイミングだって問題じゃん?」
「う……」

確かに――現在スピード絶好調に急カーブ曲がってます――なんて時に聞きたくない現実ではある。

「悪かったよ、怖い思いさせて」

言いながら腰を下ろすディアッカの肩が、重なるようミリアリアに触れ、お互いの温もりが、少しだけ伝わりあう。

ああ、なんだか……
何だかとても、ホッとする……
ディアッカの温もりが、暖炉の炎以上にあたたかい。

「ちゃんと、守ってやるから」
「うん……」

安らぎから、ミリアリアは素直に頷いた。
……けど。
何かこう……こんな状況で素直に甘えるのも、彼女の中で少々悔しいものがあって。

「あんた、くっつきすぎ」
「嬉しいくせに」

一度天邪鬼っぽい所を見せてしまうと、ディアッカは簡単に図に乗ってくれる性質を持っている。
今回も例にもれず――ディアッカは図に乗ってくれた。

「嬉しくないっ。もう、離れてよ!」
「んな、勿体無い事言うなよ」

悪態つくミリアリアの肩を支える手に、ディアッカは少しだけ力を込める。
それは、下へ向かう力。

「――え――?」

何が起こったか分からないまま、ミリアリアの背中が床に落ちる。
上を見れば、自分を見下ろすディアッカがいて……

「〜〜って、あんた!! 何よ、この体勢!!」
「何って……考えてもみろよ。雪山だぜ? しかも二人っきりなんだぞ?? そりゃもう、こーゆー流れに行くのが自然の摂理ってゆーか……」
「そんな自然の摂理は無いッ!!」

瞬間、ミリアリアは足を蹴り上げた。力の入りやすい右足を、勢いよく。
すると足はディアッカの足の間を通り、身体の芯を直撃――


「ミリアリア?!」


ディアッカが痛みに崩れ落ちる中、彼女を呼ぶ声と共に、ロッジの扉が開いた。




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