「――……は?」

目の前のディアッカは、ミリアリアの言葉に目を丸くした。
身体全体で言っている。

「……何でそんなことになってんの?」

……と。
どうしてそんな言葉が出るのか、本人不思議でしょうがないらしい。

「だって……じゃ、どうしてこんなに、我儘きいてくれるの?」

ミリアリアは考えたのだ。
何でもしてくれるのは、何か、後ろめたいことがあるから。
そう、例えば――……浮気したとか。

「私、別にそれで別れるとか言わないよ? まあ、その端正な顔に傷はつけさせてもらうけど」
「……素直に怒るって言ってくれ……」

遠回しすぎる言い回しに、ディアッカの額から、冷たい汗が流れだす。

「したの?」
「だから、してねえって!」
「じゃ、なんで?」

ミリアリアは、真剣な瞳で訊いた。

「どうして……今日のディアッカ、不気味よ」
「本人目の前に、言い切ってくれるねえ」
「不気味なものは不気味なのよ!」

どんっと机を叩きながら、不機嫌な感情も混ぜて言い切って。
その姿にディアッカは……困ったように、自分の髪をすくい上げた。

「別に、大したことはねーんだけど……アスランが言ってたんだよ。お姫さんの、普段の何気ない優しさに胸がキュンとしたって」
「は?」

瞬間、ミリアリアは眉間にしわを寄せた。
言っている意味が分からない。

「だから、何気ない仕草にドキッとしたんだと」
「……で?」
「いやあ……お前も、俺の普段の何気ない優しさに、胸をキュンって鳴らしてくれるのかなー……と」
「…………つまり、実験?」
「実験じゃねえっ! ときめいてほしかっただけだ!」
「……アホらし……」

はあ、とため息をつき、ミリアリアは立ち上がる。
本当に、何でこんなことのために、頭を悩ませていたのか分からない。

「あ、おい、ミリアリア――」
「でも、そーゆー馬鹿気たこと考えるの、あんたらしいかも」

くすっと笑い、ミリアリアは――ごく自然な流れで、テーブルに鎮座していた二人分のカップを、台所まで運んだ。
その仕草が、なんとも――……


洗い物の音を聞きながら、テーブルに頬杖をつくディアッカ。彼の心中は、中々に複雑だった。


〈なんで俺が、ドキッとしてんだよ……〉


心の中で呻いた時には――すでに、彼の顔は真っ赤に染まっていた。





-end-

結びに一言
計画失敗ディアッカさん、ミリィさんを胸キュンさせたかったのに、結局自分が胸キュン(笑)


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