「羊が一匹。羊が二匹。羊が……ぇと、三匹。羊が…………ひつじが……」
「……今、頭の中に何匹居る? 羊さんは」
「ええと……いーち、にー、さーん……よん!」

少女は、歓喜の声を上げる。
そして――勢いは、そこがピークとなった。

声は静かにゆっくりになっていく。
小さくなっていく。
思考は停止し、夢の中に心を持っていく。


数分経たず、少女に眠りが訪れて。


「……私、こんな事やられた覚え、全く無いんだけど」

寝息が響いた瞬間聞こえたのは、愛しの奥さんの文句だった。


娘が部屋を出て、ディアッカが部屋を出て……その後、これまたベッドから飛び出したミリアリアは、一部始終を眺めていた。
もちろんディアッカも、それには気付いていて。

「お前も出てくれば良かったのに」
「出るタイミングが無かったのよ。あと、嘘つくのやめなさいって」
「いいじゃん。お前もお世話になったって言った方が、効力ありそうだったし」
「別に、眠れなくなったことも――」
「あるじゃん。戦時中、結構不眠症に悩まされてただろーが。そのたびに、俺が添い寝――」
「しに来たのを、片っ端から追い出したのよね。あれは本当に鬱陶しかったわ」
「…………」

愛しの奥さんから放たれる冷たい思い出話に、ディアッカの背中は丸くなる。
そのまま瞳を、娘に投げた。
今はもう、夢の中の愛娘。

「しっかし……何でまた、眠れなくなってたんだか」
「あれじゃない? 明日って保育園で遠足行く日だから、興奮してたとか」
「え? 明日遠足なの?」
「……ああ、そういえば言ってなかったわね」

しれっと、これまた冷たくミリアリア。
父の立場、全く無し。

「ほら、もう寝ましょう? みんな明日は、朝から大忙しなんだから」
「へいへい、そーですねえ」

ディアッカは、ふてくされ気味に立ち上がった。
それでも、腕の中で眠る少女が起きないよう、抱え方には細心の注意が注がれる。

「あーあ、幸せそうな顔〜」

ミリアリアが頬を二、三度突っついても、彼女は全く起きる気配を見せない。
もう夢の中では遠足に行っているのか、小さく笑い声がもれたりもする。
それを見て、二人もまた笑ってしまった。


『良い夢を』


囁き、二人は娘の頬に、愛しくキスをする――





-end-

結びに一言
夫婦設定でディアミリを。個人的には、キリリク[幸福なる〜]の設定を引っ張ってます(苦笑)

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