えーと……今、この図体のでかい男は、何と言った?
病院に行けと言っただけなのに、涙目で「嫌だ」と叫ばなかったか?
くらくらする頭を押さえ、ミリアリアは訊いてみる。

「……私、そんなに変なこと言ったかしら?」
「言った! 病院だぞ? 歯医者だぞ?! 口の中に機械入れて、歯を削ったりするんだぞ?! やたら時間かけるし、痛かったら言えとか言いながら、痛いっつっても止めない詐欺商売だぞ?! 何でンなとこ行かにゃならんっ!」

……色々御託を並べてはくれてるが、一言で要約すると、こうなるのだろう。


――歯医者が怖い――


まさかこの男に、こんな弱点があったとは。

「俺は行かない。ぜってー行かないからな!」
「でも、行かないと歯は治らないわよ?」
「痛み止めって強い味方がいる」

どうやら彼は本気らしい。
本気で病院に行かず、痛み止めでどうにか乗り切ろうとしている様である。
そんなことしても、なんの解決にもならないのに。

しかし、ずっとこのまま――という訳にもいかないだろう。
ミリアリアは、ちょっとした荒療治をすることにした。

「……じゃ、虫歯治るまでキス禁止」
「は?!」

ミリアリアの発言に、今度はディアッカの目が丸くなる。
耳がおかしくなったか――
しかし彼女は、彼の願いも虚しく、念を押すように言ってくれた。

「だから、虫歯治るまでキスしないって言ったの」
「なんで!」

理不尽な言葉に、ディアッカは苛立ちを募らせるが、それ以上にミリアリアの憤慨ぶりの方が一枚上を行った。


「何で私が、虫歯菌に侵された男とキスしなくちゃならないのよ! 感染ったらどーすんの?
 汚い! 寄るな病気持ち!!」


ミリアリアは、ディアッカが自分から病院に行きたくなる心境にもっていこうと、あえて厳しい言葉を選んでいた。
しっかり歯を治して欲しい。そのためなら、心だって鬼にする。
そう、これは全てディアッカのため――なのだが……

「……歯医者、行ってきまぁす……」

彼女の言葉は、ディアッカを相当へこませた。





そしてたどり着いた病院で、ディアッカの心を更に地獄へ突き落とす現実が提示された。

「ああ〜、こりゃひどいな」

口の中をさらっと確認した医師が言った、一言が。



「最低三ヶ月はかかるな〜」



最低三ヶ月かかる=最低三ヶ月、ミリアリアとキスできない。
汚らわしいと蔑まれ続ける。

悲しい現実が――ディアッカの心から身体から、全てを石に変えてくれた。





-end-

結びに一言
歯医者を怖がるディアッカさん、ヘタレ街道まっしぐら(笑)

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