宇宙に上がって、すでに一ヶ月以上経過している。その間も、ザフトや連合と戦ったり、情報収集や停戦への働きかけやら……まあ色々やってはきたが、目立った成果は全くでない。それどころか、全面戦争という最悪は方向に進む力を、止めることが出来ずにいた。

焦燥感が身体を支配する。
ザフトを裏切ってまで叶えたいと思った理想への道のりは、あまりにも険しすぎて。

俺は……何か出来ているんだろうか。
俺の力は、本当に戦争を止める力になりえるのか。
そう悩みながら食堂にたどりついて――入り口で思わず足を止めた。

唖然とする。

食堂が陽気だ。いや、いつも暗い……というわけではない。ある一人の人物だけが、異常すぎる明るさを振りまいていて、周りにいる連中は、遠巻きながら、その人物を注視しているのである。

少々落ち込み気味だった俺は……完全に引いていた。
おかしなテンションで『何か』を飲み続ける、ミリアリアを見て。

「きゃははははっ。あーっ、でぃあっかだー」

俺を見つけたミリアリアは、無意味に笑い出した。

……何だ? これは。夢でも見てるのか??
こんな彼女は見たことが無い。

ミリアリアが俺を指差してくれたおかげで、食堂内の視線がすべてこちらに向く。
あまりに多い人数の目線にたじろいでいると、第二の声がかけられた。

「ディアッカ! いい所に来た!!」

言いながらやって来るのは、おっさんことムゥ・ラ・フラガ。
おっさんは俺の前までやってくると、いきなり顔面で手を合わせた。

「すまんっ!! 彼女、何とかしてくれないか?!」
「あ?」

彼女――それはもちろん、ミリアリアのこと。
あそこで荒れまくってる彼女のこと……
……あれを、どーやって、何とかしろと?

「うっかり俺の酒飲んじまってよ……頼む、ちょっと相手してやってくれねーか?」
「俺が?!」

具体的要望を提示され、素っ頓狂な声を出してしまった。
するとおっさんは、ひどくムカつくにやけ顔で、俺の肩に腕をかけ、

「好きなんだろう? 嬢ちゃんのこと」

誰にも聞こえないほど小さな声を、耳元で発する。
全部お見通し――と言わんばかりの態度に、思わず拳を作ってしまった。
よく耐えたな、俺。拳を振るわなかった自分に、最大級の賛辞を送りたいぜ。

とは言え、腹の虫は治まり所を知らないため、少し反撃に転じてみる。

「……おっさんに言われるすじあいねぇから」

小さな攻撃だが、ダメージはでかい。何せおっさんは、「おっさん」という言葉が大嫌いだから。

「……いい度胸じゃねーか……俺はおっさんじゃ――」
「なーにどなってるのー? しょおさー」

予想通りおっさんが食らいついてきて――突如割り込んできた声に、俺たちの顔が青ざめる。

いつの間に来ていたのか、目を虚ろにしたミリアリアが、俺らの服を掴んでいた。

かなり酔ってる。足元もフラフラだ。
一体何杯飲んだんだよこいつ……とか思ってたら、

「……はれ?」

ぐらりと傾くミリアリアの身体。俺はとっさに手を出し、彼女を受け止めていた。

「めがまわるぅ……」
「なんっつー酒癖だよ……おい、歩けるか?」
「あう」

返事だけだとどっちか分からねーが、うなずいたので、歩けると判断する。

「酔い覚ましがてら、散歩でもしてくるわ」
「うるさい奴に見つかンなよ?」
「へいへい」

要は、艦長には絶対見つかんな、ってことだ。
おっさんへの文句はまだまだ足りないが、まず先に、ミリアリアをどうにかしなければ。

俺たちはゆっくり歩いて――そしてここまで、展望室までたどり着いた。

*前次#
戻る0

- 64 /66-