「……サイが……サイが手招きして、挨拶するから……」
「…………」
「……私だけ、無視するわけにもいかないじゃない……」

今にも泣きそうな声に、ディアッカの胸は痛んだ。
その場に居られなかったことが、ひどく歯痒い。
なぜ今日に限って、無理にでも時間を合わせなかったのか。
彼女はその瞬間、どれだけつらい思いをしたのだろう。

「自己紹介して、握手して……よろしくねって……」
「……うん」
「……笑えたよ」
「……ああ」

かすれた声が耳に響く。
気付けばディアッカは、すぐそばにある少女の手を握っていた。

小さな暖かい手を。

いつもは振りほどくミリアリアが、抵抗しない。それどころか、握り返してくる。

「大丈夫か?」
「……だいぶへーき」
とうとう涙がこぼれたのか、雫を拭う仕草を感じる。
「結構大丈夫。握手した時も、普通に笑えた……と思う」
「思うって……」
「変な顔してなかったから、引きつってはいなかった、ハズ」
「……なんか……イマイチ信用できねー……」
「悪かったわね、信頼ゼロで」
「そこまで言ってないって」

背中を離し、ミリアリアを見たい――心底そう思ったが、ディアッカはそれをしなかった。
彼女が未だ手を繋ぐのを許しているのは、きっと互いを見ることの出来ない、背中合わせの状態だから。


〈……ま、いっか〉


無駄な考えは切り捨てる。下手なことをして、この温もりを逃したくない。
それはミリアリアも同じで。


〈……ふしぎ……〉


ディアッカと背中をくっつけているだけで、何故かささくれ立った心が落ち着いていく。

背中越しに感じる温かさ。

――それは互いを信頼している証。




-end-

結びの一言
さらーっと書けた一本でした。

お題配布元→ディアミリストに30のお題

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