――どうしよう。

ミリアリアは硬直してしまった。

仕事が大分片付いたので、一息入れようと展望室に来たまでは良かったが……そこには先客がいて、おまけに何だか深刻そうで。
なんとか入れないか……と、タイミングをうかがっていたら、聞こえてきた。

「血の……ヴァレンタインか」

――泣きそうな声が。

忘れていたわけじゃない。ただ、意識が欠落していた。
人の目で見えるほど近くは飛んでいないが、それでも、かの場所は近くにある。

悲劇の地・ユニウスセブン。

ディアッカはコーディネーターだ。
言わば被害者側。
そんな彼に、ユニウスセブンの近くでチョコレートを渡す。

……最悪だ。

一体彼は、どんな思いでチョコを受け取ったのか。


「……甘ぇ……」
「――無理しなくて良いわよ」


いたたまれなくなって、ミリアリアは声を上げた。

「いらないならいらないって、最初に言ってよね」
「……は?」

ミリアリアの登場に驚いていたディアッカは、彼女が箱に手をかけようとしたのを見て、ようやく我に返った。

「ちょ……くれたんじゃねーのかよ」
「いらないなら返してもらう!」
「誰がいらないっつった?」
「言ってないけど……あんまり嬉しいモノじゃないんでしょ?」
「――」

揺れる瞳を見て、ミリアリアが何を考え、こんな行動に出たのか悟る。
結局は自分の態度が、彼女を暴走させたのだ、と。

「えーと……まず、コレはとっても嬉しいので、返す気はありません」

箱を持ち――なんで俺、敬語使ってんだ? ――とか思いつつ、ディアッカは続けた。

「で、ここでユニウスセブンについて考えてたのは、俺自身のことじゃなくて……アスランのこと」
「アス……ラン?」
「あいつ、あそこで母親亡くしてるからさ」

どうしようか迷いもしたが、最終的には言い切った。
思った通り――ミリアリアの顔は、どんどん曇っていく。

「……そう……なんだ」
「あれだけの人間が死んだからな」
「……うん」

空気はどんどん重くなる。
そんな顔をさせたいわけじゃない。
何か、明るい話題は――

「そーいや、さ」

――探し、ディアッカは身近に、良い話の種があることに気が付いた。

「このチョコレート、どうしたんだ? ジャンク屋からの支給品?」
「あ……と、……うん」

何だかはっきりしない言い方だ。

「へー。なかなか洒落た形だよな、まん丸じゃなくて、いびつっぽい所とか」
「悪かったわね」

これまたなぜか――ミリアリアはむくれてしまった。
ほんのり顔を赤くしながら抗議する。

「板チョコじゃ食べにくいと思ったのよ。どうせ私、料理もそんなにうまくないし……」
「え?」

一瞬、顔がにやけた。
だって今の言い方は……
もしこの場に別の第三者がいても、同じように捉えただろう。

彼女が、わざわざ板チョコを一口サイズに作り直した……と。

期待してしまう。
いつだって、期待しても肩透かしを食らってきた。

だが……今回は大丈夫かもしれない。
ごくり、とノドを鳴らし、気を落ち着けて、聞いてみる。

「……もしかして……手作り?」
ディアッカの問いかけに、ミリアリアは最高のふくれっ面で答えた。

「――文句ある?」




-end-

結びの一言
色んな所を転々としてるなら、ユニウスセブンの近くを通っててもいいかなー……と。
安易な考えです(汗)

お題配布元→ディアミリストに30のお題

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