「……あれ?」
気が付くと、ミリアリアは寝ていた。
なぜか――パイロット用の部屋で。ディアッカと二人で食堂を出たところまでは覚えているのだが……その後の記憶が繋がらない。

「お、起きたな?」

かたん、と椅子の音がして、ディアッカが側にやってきた。手には、湯気の上るマグカップ。

「俺っていいカンしてるよなー。コーヒー入れるタイミング、ばっちりだったぜ」
「……?」

机の上に置かれるコーヒーポットを見て、そろそろ起きそうだからコーヒー入れたら本当に起きてビックリした――って言いたいんだな、と納得する。

「よっぽど疲れてたんだな。ベッドに座るなり夢の中、なんて」
「変なことしてないでしょうね」
「するわけないっしょ」

してないと分かっているからこそ、疑問形にしなかったのだが……するわけないと言われると、それはそれで何だか淋しい。

「それはそうと……」

頭を掻きながら、ディアッカは申し訳なさそうに呻いた。

「悪かったな、その……泣かせちゃって」
「あんたのせいじゃないわ。私が勝手に泣いただけ」

見上げると、ディアッカは困ったような笑顔を作っていた。どうしてそんな顔をするのか、ミリアリアには分からない。

ディアッカも淋しがっているだけなのだ。
明らかに自分が泣かせたのに、そうじゃないと言われて……相手は思いやりで言ったとしても、本人には淋しいものである。

それが好意を持った相手なら。

まるで、彼女にとって自分の存在は、大きくないと言われているようで。

「フレイは……」

無意識に、ミリアリアはしゃべっていた。

「フレイは、あんたに銃を向けた子」
「ああ、だから聞き覚えあったんだ」

何ともなげに、ディアッカつぶやく。

「私の……友達」
「……へえ」
「ケンカ別れしちゃって……」
「うん」
「……全然、フレイのこと考えてなかった」

思い出すだけで腹が立つ。自分のことに精一杯で、フレイのことを省みなかった自分に。

父親を失って、キラを復讐の道具に仕立ててしまったフレイを、変わってしまったフレイを、孤立させてしまった自分。
なぜあの時、フレイの支えになってあげられなかったのか。そうすれば彼女が、悲しみを憎しみにすり替えるようなことは……いや、例えすり替えても、今の自分のように、立ち直っていたかもしれない。

「フレイはお父さんをザフトに殺されて、コーディネーターを憎んでたの」
「……ああ」

――だから『コーディネーターはみんな死ね』か……

ディアッカは妙に納得してしまった。
どんな気持ちで彼女が自分に銃を向けたのか、ようやく分かった気がする。

フレイの乗ったポットを連合に奪取された時のキラの慌て方、そして彼女の悲痛な叫びから、二人の間に何らかのつながりを感じ取れた。

彼女にとってキラはとても大事な人なんだろう、と。

アラスカで銃を向けられた時、彼女は父も想い人もザフトに奪われたと思っていたわけで……

心がキリキリと痛む。

「艦長が言ってたの。フレイは政治利用されるって。だからAAを降ろされたはずなのに、表舞台には全然出てこなくて……
そんなこと、気にもしてなかった。今まで、フレイの声聞くまで、どこで何してるかなんて、考えもしなかった。
……私、本当にフレイの友達って言えるのかな」
「友達だろ」

ディアッカは簡単に言ってのけた。

「じゃなかったら、ンなに悩めねーよ」
「……そういうもの?」
「そーゆーもん」

実にあっけらかんとした物言いが、なんとなく嬉しい。

「……そっか」
「そーそー。だから深く考えんな」

ぽん、と肩に手を乗せられると、不思議と気分が楽になった。

「どうして……」

なぜディアッカがこんなに優しいのか。
なぜ自分はディアッカに対して、こんなに安心感を覚えるのか。

言葉は虚空に消えず、ディアッカに受け止められる。

「何が?」
「すごく優しいから」
「言っていいの?」

ディアッカは極上の微笑を浮かべている。
からかいも皮肉も感じさせない微笑を。

「……言えるもんなら、言ってみなさいよ」
「……おっけー」

顔を赤くしながら最大限に強がるミリアリアを相手に、ディアッカは優しくささやいた――


-end-

結びの一言
初めて書いたお題だったり。

お題配布元→ディアミリストに30のお題


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