「えーと……」 30分後、ミリアリアは格納庫にいた。マリューからマードック宛にお使いを頼まれたためだ。 「……ん?」 探し人を求めて目を走らせる内に、ふとおかしい人物を発見した。 連合一般兵の姿がある。 AAに乗ってる一般兵の軍服を着ている人物など、今やサイしか存在しない。 確かに金髪という共通点はあるが、明らかに彼より背が高いのが気になる。 というか、あの後姿はどう見ても…… 「……ディアッカ?」 不思議そうに、その名を呼んでみる。 すると、屈託の無い笑顔が返ってきた。 「あれ? どーした? 用事?」 「……マードックさんに、これ……」 おずおずと、両手に抱えていた小冊子を見せる。 ――連合の軍服を着たディアッカに。 「おお、悪ぃな。でも、わざわざプリントアウトしなくても、データで回してくれれば……」 「一応機密事項なんだけど」 見慣れぬディアッカの姿にやりにくさを覚えながら、ミリアリアは必死に、自分のペースを保とうとした。 目を細め、眉間にしわなんぞを作りながら、ぽそりと追加事項も入れておく。 「……マードックさん、そういうの苦手だし」 「あのおっさん、めっちゃアナログ派だもんなあ」 けらけら笑うディアッカ。 変だ。おかしい。 表情はいつもと同じなのに、赤いジャケットを着ている時とは、まるで印象が違う。 着る服が違うだけで、こんなにも変わるものなのか。 ――というよりも、どうしてディアッカが、連合の軍服なんぞを着ている? 「……どうした?」 いつもと感じの違うミリアリアに、今度はディアッカが不思議そうな目を向けた。 彼女は隠すことなく言い切る。 「変」 一言。 たった一言だったが、ディアッカには面白いほどすんなり伝わった。 「俺もそう思う」 自分のことなのに、さらりとあっけなく、彼は評価を下す。 地球連合軍の制服に身を包んだディアッカ―― 見れば見るほど違和感が増す。 「なんで連合の軍服着てるの? あんなに嫌がってたのに……」 「仕方ないんだよ。全部、タカのおっさんが悪いの」 タカ=エンデュミオンの鷹=ムゥ・ラ・フラガ。 ミリアリアの中でこの構図が出来上がるまで、数秒の時間が必要だった。 名前と姿が一致した時には、ディアッカは核心部分へ話を進めている。 「あのおっさんに、さっきオイルぶちまけられたんだ。こちとらロープで宙吊り状態だったってのに??」 「宙吊り?!」 思わず声が出た。 動けない状況下までは把握していたが、まさか格納庫で宙吊りにされているとは、考えもしなかった。 「……どーしてそんなことになってんの?」 呆れ果てた末に出た言葉は、これまた変哲の無い、ただの呆れ文句。 ディアッカは、肩をすくめて呻いた。 「バスターから降りてる最中に、上からばしゃッ! と」 今現在、格納庫は調整のため、重力制御の中にある。ゆえに宙を浮いて移動、なんてのも出来ない話で。 「……災難だったわね」 それしか言いようが無い。 しかしそれでも、解せないものがあった。 「でも、予備の制服は?」 「昨日、これまたおっさんにダメにされた。ほら、二着しか貰わなかったし。ただ今クサナギに発注中」 目を伏せ、大きなため息をつく。 「作業服で良いっつったんだけどさぁ……あのおっさん、どこからともなくこれ引っ張り出して、新しいのくるまでこいつで我慢しろ――って。一応責任は感じてるみたいなんだよな」 ぽりぽりと鼻の頭をかきつつ、 「わざわざもって来てくれたの、突っ返すのも悪いし……」 本人気付いているのかいないのか……変なところで律儀だと、こんなシチュエーションで発覚させてしまっている。 「しっかし……案外普通に着れるもんだな。もっと嫌悪感とかあるかと思ったけど……やっぱあれか? ミリアリアと同じ軍服だから――」 「変なこと言ってんじゃないの」 すかさずミリアリアの手が、ディアッカの肩に振り下ろされる。 言葉や動きとは裏腹に――何だかとても、嬉しそうに。 -end- 結びの一言 長すぎる前置き部分が一番楽しかった気が(汗) お題配布元→ディアミリストに30のお題 |