その姿を見つけた時、ディアッカは二つの対応策を練った。

一つ。いつも通り振舞う。
一つ。優しい言葉をかける。

バスターの前で……まるで泣いている様にも見えたミリアリアを前に、ディアッカはあえて、前者の選択肢を選んだ。

「サボリ?」

俺になんか心配されたくないんだろうなー……とか考えながら。

顔を上げたミリアリアは、彼の予想通り、たいそう不機嫌そうに言った。

「あんたに関係ない」
「って言われても、バスターの前で落ち込まれちゃ……」
「落ち込んでないっ」
「あー、はいはい。落ち込んでないのね」

触らぬ神に祟りなし。
下手に逆らって、彼女の気分を害さない様にしようとディアッカは思った。
だが、残念ながらミリアリアの不機嫌度数は、ディアッカの仕草一つ一つがムカつくレベルまで達していた。

「何なの、その態度。人をバカにして」
「はぁ?! いつ俺がバカにしたよ」
「いま」
「うわ、それすっごい濡れ衣」
「……やっぱり、バカにしてるじゃない」

言って顔をしかめてしまう。

「こんな所で油売ってないで、さっさと仕事しなさいよ」
〈――それをお前が言うか〉


喉元まで出かけた言葉を何とか飲み込んだディアッカは、しばし天を仰ぎ、適当な言葉を探すが、

…………見つからない。

最終的に、今のミリアリアには何を言っても同じ、という結論に達し、ディアッカは考えるのをあきらめた。

「する気はあるけど、お前がいるとやりにくい」
「は?」
「これから俺、バスターの整備」

二人の視線が、バスターに向いた。
色を失った状態の、ディアッカの愛機。

一度色を取り戻せば、アレは戦場を砲火で埋める。

気がつくとミリアリアは――深く考えることなく、心に浮かんだ質問をぶつけていた。


「……アレに乗るのって、どんな気分なの?」


それが失言だったと気付くまで、そう時間はかからなかった。
まずい。
きっとディアッカは返答に困っている。

撤回しよう――とした時だ。

「これはまた、難しい質問くれるなあ」

ディアッカは後頭部で手を組むと、おどけた調子で話を続けた。

「最初は……まあ、嬉しかったよな。うん。これが俺の機体かー、って」
「…………」

慎重に、言葉を選んでいる様がはっきりと見てとれた。
今彼は、真剣にミリアリアの問いに答えようとしている。
だから彼女も――思うところはあれど――口を挟むことは無かった。

*前次#
戻る0

- 37 /66-