抱きしめる形で床に倒れた二人。そこからミリアリアが這い出してくる。

「――ディアッカ?!」
開口一番、ミリアリアは彼の名を呼んだ。ディアッカのおかげで、彼女は傷一つ負っていない。
だが――ディアッカは?

「おう……無事?」
「私は……平気」

心配したミリアリアに体を揺さぶられ、恩人はのろのろと体を動かした。
パッと見、大きな外傷は見つからない。

「大丈夫……?」
「おお。俺、コーディネーターだぜ?」

きれいな白い歯を見せ、笑顔を作るディアッカ。そこに――

「よくやったぞ、ボーズ!」

マードック他、格納庫にいた整備班達も集まってきた。
彼らはみな、ディアッカの行動を褒め称え、彼もまた、それに応えている。
ミリアリアは、本当に大丈夫なんだな……と胸をなでおろし――

「……?」

輪の中にいるディアッカを見て、一瞬目が止まった。何ともない素振りを見せているが、今、ほんのちょっとだけ、顔をしかめなかったか?
ジャケットの右腕部分が、他より濃い色に見えるのは気のせいか?

「……ディアッカ」

怒ったように、ミリアリアは声を上げた。
見間違いじゃない。あの『赤』は――

「やっぱり、怪我してるじゃない!」
「あ? これただのかすり――」
「早く医務室行くわよ!」
「え? だからかすりき――」
「ぐだぐだ言わない!」
「……はい」

こうしてディアッカは、医務室に強制連行されることになった。
執行者はもちろんミリアリアで――





――……こんな感じで、現在に至っている。



恥ずかしい……!
何よりもまず、それだった。
申し訳ない気持ちもあるが、全てにおいて恥ずかしさが先行している。

「……あの、よ」
「……何よ」

声をかけられても、冷たい対応しか出来ない。

「えーと、その……」

ディアッカが何を言いたいのか分からないが、彼が伝えたい言葉を探す内に、二人は医務室にたどり着いた。
怪我人は丸いすに座り、連行者は消毒等を棚から取り出す。

静かな手当てが始まった。
どちらも声を発そうとしない。

二人とも、頭をフル回転させていた。
考えることは一つしかない。互いに、伝えなくてはならない思いを抱えている。
幸い邪魔な人間は誰もいないし、相手も黙ったままなのだから……

――チャンスは今だ。

『ごめん』

同時に口を開き、二人は全く同じことを言った。
助けてもらったのに、逆に怪我させて「ごめん」。
不可抗力とはいえ、セクハラした上、階段落ち――なんて怖い思いさせて「ごめん」。

心からの謝罪のはずだったのに、それがあまりにもタイミングぴったりだったため、二人は顔を見合わせ――

「っぷ……あははっ」
「なんで同じこと言うかねー」

おかしくなって、笑ってしまった。


チャンスという名のタイミング一つで、世界はこうも簡単に変わる。





-end-

結びの一言
これがチャンスなら、お題全部「チャンス」になりそう……(汗)

お題配布元→ディアミリストに30のお題

*前次#
戻る0

- 33 /66-