「手伝うって言ったら嫌がって、待ってるって言ったらそれもダメ? お前、一体どーさせたいんだよ」
「……そんな……怖い顔、しないでよ……」

言いながらミリアリアは後ずさる。それに反応して、ディアッカも一歩、足を進めた。

「元からこーゆー顔なんだよ」
「……あんた、意地悪すぎ……」

追い詰めて、追い詰められて。
最終的にミリアリアは、部屋の隅まで追いやられ、退路を失った。
ディアッカが、逃げ道を塞ぐよう、両手を壁につける。その腕の間に――ミリアリア。

決して触れ合っているわけではないのに、抱きしめられていると錯覚してしまうほど、距離は近い。
吐息すら聞こえるほど――


「そんなに俺のこと嫌い?」
「……嫌いじゃ……ないけど……」
「じゃ、好き?」
「……あんた、意地悪すぎ……」
「それはさっき聞いた」
「……?」


不意にディアッカの声質が変わった。

……なんとなく予感がして、それまで必死に見ないようにしてきた彼の顔に目を向けると――

ディアッカは、腹が立つほど爽快な「したり顔」を作っていた。
それまでの緊張感が、一気に吹き飛ぶ。

「……あんたなんか、きらい」
「冷たいなー、ミリアリアさんてば」
「あーはいはい。邪魔だからあっち行って」

動きを制する腕をどけると、ミリアリアは元の作業に戻っていった。
ディアッカは――その場を動こうとしない。
どうやら今度は「中」で彼女を待つ気らしい。
はあっ、と大きなため息をついたミリアリアは、説得の言葉を変える事にした。

「私のことは放っておいて良いから、自分のこと考えなさいよ」
「……は?」
「あんた、定時から休憩取ってるんでしょ? 遅れたら、またマードックさんに怒られるじゃない」

ミリアリアの言葉は、ディアッカを驚かせるに十分な効力を持っていた。
とてつもなく自分に都合よく解釈すると、彼女が自分を一人で食堂に向かわせようとしていたのは、決して鬱陶しいからではなく、自分の立場を心配してのこと。
つまり彼女は、自分を想ってきつい事を言っていたのだ。
とても嬉しい。

「なら、尚更手伝わないとな」
「え? でも」
「大丈夫。ミリアリアの手伝いしてたって言えば、誰も文句言わないから。な!」
「……分かったわよ……」

彼は「聞いて」いるのではない。
すでに決定事項として、彼女に「伝えて」いるのである。
今度は、ミリアリアがあきらめるしかなくなった。

「ところでさ」
「なに?」
「探し物って何?」
「あんた……生粋のバカね」


呆れるミリアリアは、ふと格納庫の方向へと目を向けた。
ディアッカが遅れれば、ディアッカの次に休憩を取るクルーの休み時間も押す、あるいは削られる。
それを指摘したところで、彼がこの場からすぐさまいなくなる事は無いだろう。
そういう男だ。



〈ごめん、みんな。きっとディアッカ、大分遅れる……〉



これが真実。正しい解釈。



言葉にしなくても伝わること。
言葉にしなければ伝わらないこと。





-end-

結びの一言
言葉って難しい(切実)

お題配布元→ディアミリストに30のお題


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