ミリアリアとディアッカの間に引かれる一本のライン。こうやって触っていても、そのラインに阻まれている気がする。
所詮別の生き物なんだ、と。


ある種絶望すら込められた言葉。
しかしミリアリアは、ディアッカの話に目を白黒させた。

「なに言ってるの?」

眉間にしわを寄せて。
ああ、全然意味伝わってないな……ディアッカはそう思ったのだが、

「世の中、同じ人間なんているわけないじゃない」

しっかり伝わっていたらしい。
何おかしなこと言ってるんだ、この男は――そんな表情で、彼女はディアッカの額に手を伸ばす。

「……熱ない?」
「そりゃお前だろ」

両腕を掴み、寝かせようとして、瞳が交差する。それはディアッカの動きを止めるのに、充分な力を持っていた。
赤みを帯びた顔が、ディアッカに近づく。

「さみしいこと、いわないの」

甘い囁き。

「同じ人がいないのが、そんなに寂しいって言うなら」

おでこを胸に押しつけながら、ミリアリアははっきり言った。

「あんたの言う境界線なんか、簡単に越えてあげるわよ……」


愕然としてしまう。こんな状態の彼女に、心の奥の、そのまた奥まで踏み込まれてしまった事実に。


AAにいるコーディネーターはディアッカただ一人。それが嫌なわけではないが、周りにコーディネーターしかいなかった生活しか送ったことのないディアッカにとっては、戸惑うこともたくさんあって。
別に苦痛というわけではない。だが時々、変な孤独を感じてしまう。
分けようとして引いたものではない、無意識の内に作ってしまった境界線。自分でも越えたいと思ったし――それ以上に、越えてきてほしいとさえ願っていたが……


――まさか、そんなところまで見抜かれてしまうとは。


「ミリアリア……」

どう声をかけて良いか分からず、とりあえず自分にもたれかかる少女の頭をなで――

「……ん?」

おかしなことに気がついた。
ミリアリアの反応がない。おまけに、さっきより体が熱いような熱くないような……

「ミリアリア?!」

ハッとして自分から体を離すと――

「……きゅう」

すでに彼女の意識はなかった。

「ちょっとまて……ドクター、ドクター!!」

慌てて医師を呼びに行くディアッカが、その後「患者の容態を悪化させてどうする!!」とお叱りの言葉を受けることになるのは……言うまでもない。

*前次#
戻る0

- 28 /66-