そして、あっという間に夜になってしまった。

「……よし」

ミリアリアの部屋に到着してから10分強。扉の前でウロウロと変質者的動きをしていたディアッカは、とうとう覚悟を決めた。
緊張する手を握りしめ、インターホンに触れる。

「俺……だけど……入るぞ?」

返事もまたず、そのまま扉を開ける。
部屋に入るとミリアリアは、パジャマ姿でベッドに座っていた。

「えーと……こんばんは」
「……こんばんは」

場違いな挨拶を律儀に返しながら、ディアッカはミリアリアの前に立った。

訪れるは沈黙。二人は何をするでもなく、互いの出方を待っている。


〈――なんでこんなに緊張してんだよ……〉


ディアッカのそれは、自分に対しての思い。
ただ一緒に寝るだけなのに、後は同じ布団の中に入れば良いだけのことなのに、なぜ最後の一歩をためらうのか。
何かするわけでもないのに……


何分くらい、そうしていただろう。意を決したミリアリアが、深々と頭を下げながら言った。

「……よろしくお願いします」
「え? あ……こ、こちらこそ……」

二人の間で、なぜか新婚初夜の様なやり取りが交わされ、ミリアリアが、そしてディアッカが、布団の中に入っていく。


どっくんばっくんどっくんばっくん……


互いに、心臓の音は相手に聞こえてしまうんじゃないかと思うほどの大音量。おまけにディアッカは、緊張のあまり、ミリアリアを直視できない状況に追い込まれていた。


〈無理、俺なら無理! こんなんじゃ絶対眠れねー!〉


心の中で、そう叫んだ時だ。
髪に、温かいものが触れた。

正体が分かったのは一瞬あと。

「おやすみなさい」

優しい声を聞いて。

金城の髪に沈む、小さなミリアリアの手。瞳を交わすと、彼女が自分を気遣う様が見てとれた。

揺れる瞳が言っている。大丈夫? ――と。


何となく分かった。なぜ彼女が『自分』を選んだのか。
ディアッカに「一緒に寝て」と言った理由が。
それは全部――彼のため。
胸に熱い思いが込み上げる。

「おやすみ」

伝えたい。優しく、勇気のある女の子に。


「……ありがとう」
「ディアッ……」


彼の言葉と表情、そして袖口から伝わる感触に、今度はミリアリアが言葉を失った。

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