寂しいのです。
心が張り裂けそうなほど、彼女は寂しい想いをしているのです。
この夜をたった一人で過ごすのは、最愛の父が出張で遠くに行ってしまっているから。
出来れば彼女の願いを叶えてあげたいのですが、さすがのサンタイエ口ーにも、そんな力はありません。
なのでサンタは、別の方法を探しました。
彼女が、悲しみの色を薄める方法を。


「……あまり多用すると怒られるけど……」


ぶつぶつと少女に聴こえないほどの小声で呟きながら、サンタは大きな袋を漁り始めます。肩口まで手を入れて、取り出したのは小型の液晶モニタ。付属品として、受話器も備え付けられています。

「……なんなの? それ……」
「分かりやすく言ってしまえば、一方的なテレビ電話ですかね」

そう言って、サンタはフレイに受話器を持たせます。

「貴方が今、一番声を聞きたい人を思い浮かべて」
「声を、聞きたい人……?」

ますます信用ならないと、フレイは嫌悪感を強めました。
けど、その時。


《ああ、もうこんな時間か……》
「――ぇえっ?!」


受話器から声が聞こえ、フレイは耳を疑いました。サンタを疑う一方で、彼女の心は、しっかり『一番声を聴きたい人』を思い浮かべていたのです。
最愛の父親を。
そして響く声は、父の声。


「貴方が今、一番会いたい人の姿を、思い浮かべて」
「わたしが……あいたい、ひと……」




――そんなの、一人しかいない――




父の声が、フレイの殻を壊していきます。
サンタへの警戒と緊張は一瞬で消え、フレイは、耳に届く父の姿を求めます。
すると今度は、液晶モニタに水の波形が生まれました。フレイもサンタも、目を凝らして覗き込みます。
二人の大人が映りました。


《しかし、とんだ日に出張になりましたな》
《こればかりは仕方ないさ》


肩を竦める二人の大人の片方に、フレイの目は釘付けになります。
そこは彼女にとって全くの『見知らぬ土地』ですが、映っている大人は――


《でも、娘さんは良いので?》
《……ああ……》


話を振られ、フレイの目が追う大人が、ふと表情を曇らせました。
ずきん、とフレイの心が痛みます。


《フレイには……あの子には本当に、いつも寂しい思いをさせてしまう。出来るなら、一緒にこっちまで連れてきたかったんだが、そんなことしても、あの子が寂しがることに変わりは無いしな》


大人は、とても寂しそうに笑いました。


《会いたいな。せめて声だけでも……》


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