「……一応、こんな物も用意してみたけど」

言ってミーアは、もう一通手紙を取り出し、疑問符を飛ばすハイネに渡します。
それは、ハイネの主君、カガリからの手紙でした。
手紙には、こんなことが書かれていました。





お前がまさか、執務官に選出されたことに悩みを感じているなんて、思いもしなかった。
何をどう言えば、お前に伝わるか分からないが……これだけは知っていて欲しい。
私はお前を信頼して、この職を任せている。
お前だから任せられたんだ。だから『キサカの代わり』だとか、そんな風に考えないでくれ。





カガリ直筆の手紙は、ハイネの心を熱くしました。自分のために一筆書いてくれたカガリの心に、涙さえ浮かびかけます。
嬉しい。純粋に、嬉しい。

けど。
心に生まれた『不安』が消えてくれません。
どう頑張っても、自分は『代役』であり『偽者』なのです。キサカの代わりだと考えるな……そんなことを言われても無理です。
周りの目が、それを許しません。あくまで自分を『キサカの代わり』と見るのです。

最初は耐えました。いえ、逆にそれを、自分の力に変えていました。
彼は実直な人間です。大雑把に見えて、ひどく繊細な心を持っています。優秀な能力も災いしました。
期待に応えなければ――そんな思いで、心をすり減らしてしまって。

「一つ訊くけど、あんたはその場所に満足してる?」
「……してるわけ、無いだろ」

ハイネは声を絞り出します。

「所詮俺は、偽者だ」
「でも、偽者には偽者なりの役目があるの、分かってる?」
「……?」

ゆっくり顔を上げます。
目の前に、手の届く距離に、ミーアがいました。
ラクスの『偽者』は、優しく語りかけます。

「私には私の役目がある。ラクス様の『偽者』は、私にしか出来ない立派な『仕事』よ。今、私がいる場所は、私にしか立てない場所だもの。誠意とプライドを持って、ここに立ってるわ。
例え偽者でも、代わりの務まらない『偽者』の場所だってあるの」


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