ラクスがそんなことするはずないと、ミーアは心から信頼しています。自分について、そんな風に言われたから怒っているわけではありません。 ラクスを侮辱されたようで、腹が立ったのです。 思い出しても腹が立ちます。ゆえにミーアは、もう一度、壁に怒りをぶつけました。 そしたら、彼女の耳が、声を捕らえました。 「おいおい、『ラクス・クライン』がそんなことしちゃ、まずいだろ」 声をかけられたことで、彼女の身体は固まりました。心臓は止まる直前です。 ラクス・クラインは、決してこんな暴力的行動は起こしません。 しかし希望もありました。どこか聞き覚えのある声です。ゆっくり振り向くと、窓辺によく知った人物が立っていました。 「なーんかムカつくことでもあったかぁ?」 運の良いことに、それは知り合いで、運の悪いことに、知り合いの中でも性質の悪い分類に属する人間でした。 緑のサンタでした。 「……あんたは良いことがあったみたいね、ディアッカ」 「違う違う。今の俺は『サンタ』だぜ、『ラクス嬢』?」 にやりと笑い、揚げ足をとっていく緑色のサンタ――ディアッカに、ミーアは反論の糸口さえ見出せません。 「おーい、反省してるかー?」 「し――……してますわ。それより貴方、どうしてこちらへ? このブロックは、ホワイトの担当じゃありませんでした?」 人目につくところでは『ラクス』を演じなくてはならないミーアは、ディアッカの挑発をなんとか耐え、代わりに質問で返します。 「いや、そーなんだけどよ、何でか今日になって、担当四件も増えてやがんだよ。心当たり、何か無え?」 「いえ、全く」 ミーアは否定します。確かに彼女は午前中、諸事情によりサンタホワイトの仕事を数件、ディアッカに回しました。もちろん、彼には内緒で勝手にやったことですが、表情に全く出さず、完全否定します。 「でも……この官邸に、事務局に手紙を出す方がいるのですね」 「つーか、プレゼントを欲しがってるってんじゃなくて、ただ迷いを書かれただけってゆーか……」 「迷い?」 「おう。悩み。ま、これ読んだほうが早ぇわ」 サンタは一通の手紙を見せました。流麗な文字で書かれた文章は、その達筆ぶりに似合わない悩みをつらつらと表現しています。 ミーアの眉が、ぴくりと上がりました。 「多分、ラクス嬢辺りが見つけて、お姫さんに相談したんじゃねえ? こんな手紙が『クリスマスプレゼント』になってるし」 「貸して」 「あ、おい!」 ミーアはもう一通の手紙を奪い取ると、サンタに確認する間も無く、開封して中身を見てしまいました。 「ふ〜ん、なるほど……」 呟くミーアの目が細くなっていきます。 一通目に書かれていた手紙の内容と、この手紙。確かに分かります。しかし、これだけでは不十分だと思いました。 この手紙だけでは、悩みの根底に眠る『不安』を取り除けないと思ったのです。 「ねえ、これ、私に届けさせてくれない?」 「は?」 信じられない言葉を、サンタの耳は捉えました。 けれど、ミーアの瞳は真剣そのものでした。 |戻る0| -24/73- |